サンタクロースのお仕事
第1話 サンタクロースは怒りん坊。
サンタクロース。
その言葉に何を思い浮かべるだろう。
白い髭に腹の突き出た優しげなジィさん?
トナカイに牽かれて夜空を自由に飛ぶソリ?
それとも、雪の舞う華麗で華やかなクリスマス?
少なくとも、この世界においてはそのイメージは全て間違いだな。
俺は目の前の港を占拠する巨大なイカを望遠鏡越しに見上げながら、そう思った。
恐らく、全長は優に五十メートルは超えている。特にイカの頭、正確には胴体だったか?まぁとにかく、そう言う部分が巻き貝に収まっている。
「間違いねぇ。カメロケラス・クラークニス。巨大な巻き貝を背負ったイカだ。ノグシーの中でも、防御力と再生力に長けた厄介なタイプ。少なくともソロ討伐はキツいな」
巨大災害級生物ノグシー。
文字通り、言葉通りに、巨大では災害に匹敵する謎の生命体。
その中でも海に潜む海洋生物型は、海という広大な空間を自由に扱える環境から、非常識なまでにデカく、そして強くなることが多い。
災害度数は目測で5.5ってところか。サーヴァントランクの楽な仕事って聞いてたが、余裕でマスターランクはある。
「……こんなヤバい奴だとは聞いてねぇぞ?」
俺が思わず呟くと、そんな俺の隣にいた、無駄に筋骨逞しい焼けた肌のじいさんが、いけしゃあしゃあと話しかけてきた。
「おいおいおい!サンタクロースとアンチャンよお?何を言ってんのよ?こちとら、このままだと仕事にならんのよ。この手のヤバい奴を退治するのが、アンタらサンタクロースの仕事だろうが?」
いやふざけんな。クソッタレが。聞いてた話と違うだろうが、バカ。何普通に俺がアイツを退治する流れになってんだよ。金出せや、ボケジジイ。
俺はそんな内心を隠しながらも、にこやかな笑みを浮かべて受け答えをする。
スマイルスマイル、プロのお仕事は笑顔から。
「ああ?ふざけてんじゃねえぞ?報酬ケチるためにランク誤魔化しやがって!上前はねようとしてる奴の言うことわざわざ聞く道理はねぇだろうが!カス!!」
「ああ!?クソガキがつけ上がってんじゃねぇぞ?テメェらみたいなロクでなしどもに飯の種を分けてやってんだあら、こちとら感謝される謂れはあっても文句をつけられる謂れはねぇぞ!オラァ!!」
「だったらテメぇらでやりゃ良いだろうが?!漁師なんだからイカ退治なんざお手の物だろうが!アレ狩ってデケェイカ飯作ってろ!コラァ!」
「んだとテメェ、クソガキがぁ海の藻屑にしてやらぁ?!!!」
「やってみろぉよ!!」
こうして、俺と依頼人たるこの港町の網元との頭突きが始まった。
海の男は命知らずで喧嘩っぱやいとはよく聞くが、ここまで短気だとは思わなかったぜ。
このクソジジイ!!!ぜってぇぶっ殺してやる!!!!!
報酬で揉め始めた俺と漁師のジジイは、至近距離での頭突きをし合い始めた。
それがそろそろ本格的な喧嘩に入り始めたその時だった。
「ハイハイ。そこまでそこまで。依頼人には笑顔笑顔。サンタクロースは笑顔を作るお仕事ですよ?」
「いつも仏頂面してるお前に言われたくねぇよ。ってか、こんな事を起こさない様にするのが、プレゼンターの役目じゃねぇのかよ?!」
俺の直属の上司、ことプレゼンターのエリーゼが俺と漁師のクソジジイとの間に割って入った。
おかっぱ頭に切り込んだ白髪に、赤いバラの花の頭飾りをつけた小柄な女性。
ぱっと見では小学生にしか見えない容姿をしているが、本人曰く、そろそろこの仕事に就いて数年をは経つベテランだそうだ。
人体改造でもしているか、遺伝子調整でもしている様にしか思えないが、これでも天然ものらしい。絶対、嘘だ。
「今、何か失礼なことを考えていませんでしたか?」
「……別に?とっても綺麗な上司がで嬉しいな。って」
「そうですか。後でセクハラで訴えときますね」
俺の誤魔化しを聞いて、エリーゼは一瞬でそう切り捨てた。
クソが。理不尽すぎるぞ、ロリババアめ。
するとエリーゼは、そんな俺を無視して依頼してきた漁師のジジイの前に立ち、深々と頭を下げた。
「ガンテッダ様、弊組織の愚か者こと、ゾス・クリストロウの御無礼をお許しください。何しろ、ご覧の通りに短気で喧嘩っ早い、弊組織切っての馬鹿者でして」
「はぁ?!我慢二回しかしねぇお釈迦様よりも倍は我慢したぞ、俺は!!」
しかし、そんな俺のささやかな反論に一切の興味も示さず、エリーゼは漁師の爺さんに話しかけ続けた。
「しかし、弊組織としましても、このまま今回の依頼をお引き受けする事はできないこともご理解ください。少なくとも、今回の案件は契約依頼書とは内容が著しく異なっている事態になりますので、このまま契約を続行する訳には参らないこともご理解ください」
「ふざけてんじゃねぇよ!サンタクロースってのは、ああいうバケモン退治する為の奴らだろうが!いいからとっとと、あのイカを退治しろって言ってんだろうが!依頼した時に 如何様にできますとかほざいてんだから、さっさとどうにかしろよ」
「いいえ。それはできません。今からそれができない理由をガンテッダ様にご説明させていただきます」
そう言うとエリーゼは、左手に巻かれたホログラム投影型ブレスレット式電子端末を起動させた。
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