D××/復活祭からXXXIX日後 アーサー王宮廷の中庭

 アグロヴァルはその日、やけに上機嫌な弟に遭遇した。彼は白み掛かった金髪を揺らしながら、嬉しそうに鼻歌まで唄っていた。

「ラモラック、何かいいことでもあったのか。かつて母が聞かせてくれた、ノーサンバランドの歌なんか口ずさんで」

 彼が声を掛けてみると、ラモラックは途端に恥ずかしがった。ここは宮廷内でも人通りの少ない中庭で、まさか身内が来るとは思わなかったのだろう。

「何でもない、気にするな。今日の朝、実に良い夢を見たというだけだ」

 彼は赤い瞳を泳がせながら、後ろ手に小さな花を隠した。一人でひそひそと花を摘んでいるとは、普段の様子からはあまり想像できなかった。

「良い夢か。できれば内容を教えてもらいたいものだな」

「夢解きの隠者でもない限り、それは無理な話だ。もっとも、夢の意味など分かり切ってはいるが」

 矢継ぎ早にそう言うと、ラモラックは庭の隅に腰を下ろした。アグロヴァルも隣に座り、そして先日の試合のことを思い出した。目覚ましい活躍を遂げ、ついには優勝の褒美を与えられた弟のことを。

「先日の馬上槍試合では、素晴らしい腕前を見せてくれたな。宮廷の騎士たちも言っているぞ。ランスロット卿とトリスタン卿に次ぐ槍の名手は、紛れもないおまえだと」

「あの試合には、ランスロット卿もトリスタン卿も出場していなかった。次は彼らもろとも落馬させて、真の名誉を勝ち取るとしよう」

 ラモラックはぺリノア王の息子で、王妃の腹から生まれた子としては三人目となる。しかし武芸の実力は目を見張るものがあり、特に馬上での槍さばきは素晴らしかった。

「今度の馬上槍試合は、一体いつだろうか。確か、サールースでおこなわれると聞いた」

「数十日と間を置かないのではないか? 王が言うには――」

 ――アグロヴァルが言い掛けたとき、廊下の奥から小さな足音が聞こえてきた。見るとラモラックの少年従者が、何やら言付けを伝えに来たようだった。

「失礼、私はこれで」

 ラモラックはアグロヴァルに別れを告げ、少年とともに奥へと消えていった。先ほど摘んだ花は、未だ彼の手に握られていた。

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