叶いがたき邂逅
中田もな
2015/08/07 とある島の宿屋
最初に彼を見つけたのは、実の弟のダネルだった。弟はパン屋から帰って来るや否や、興奮した様子で姉のフランに話し掛けてきた。淡い桃色の瞳をキラキラと輝かせながら、実に楽しそうな様子で。
「姉ちゃん! おれ、騎士の兄ちゃんに会った!」
島の小さな宿屋を営む一家は、朝から食事の支度で忙しい。フランも茶色のポニーテールを揺らし、慌ただしくキッチンを駆け回りながら、でたらめを言う弟を軽くあしらった。
「はぁ……。全く、つまらない冗談はやめてよね。ほら、早く買ってきたパンを渡してちょうだい」
「冗談じゃない! 本当だってば!」
適当に返事をされたダネルは、途端に機嫌を悪くして頬を膨らませる。幼さの抜けきらない彼は可愛いのだが、忙しいときに怒り始めるのは困ったものだ。
「おれ、本当に会ったんだもん! うそじゃないもん!」
「はいはい、分かったから。その話はまた後でね」
フランは半ば強引にパンの入った紙袋をひったくると、弟に聞こえない程度にため息をついた。夏のこの時期は宿泊客も多く、準備や片づけにもひと苦労だ。更には弟の面倒も見なければならないとなると、フランに与えられた自由時間はほとんどなかった。
「ダネル、お母さんの手伝いをしてきて。多分、洗濯物を干しているはずだから」
「はーい……」
ダネルは不服そうに口を尖らせたが、素直に洗濯場の方へと消えていった。フランはその様子を見ながら、ふんわりとした食パンをプレートの上に並べ、ソーセージとスクランブルエッグを丁寧に盛りつける。
「皆さーん! 朝食の準備ができましたよー!」
彼女が呼び掛けると、支度を整えた宿泊客が、ぞろぞろとテーブルの周りに集まってくる。爽やかな風に、真っ青な空。今日は朝から気分が晴れ渡るような、絶好の観光日和だった。
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