Gluttony×Scramble

binet

第1話 邂逅幼女

はじめまして、俺の名前は宇都 まひろって言います。

突然の自己紹介失礼いたします。

年齢は17歳・・・男子高校生です。聖ノエラ大学附属高等学校に通っています。成績は中の上くらい、趣味は手芸です。至って普通の男子高校生、です。

そんな俺が何故今リビングの扉の前で元剣道部の兄の竹刀を握りしめているかというと、話は20分ほど前に遡ります。


俺の家族構成は父、母、兄、そして俺の4人です。

父と母は共働きで、ともに考古学の大学教授。オーパーツってやつの研究をしているみたいで、オーパーツを探しによく海外に行っています。そのため、家を空けることが多いです。

そんなわけで、俺の面倒は10歳上の兄、凪沙(なぎさ)兄さんが見てくれていました。

兄さんは現在はサラリーマンとして働いているので、兄さんが就職してからは料理や買い物は俺が担当しています。

そんな凪沙兄さんですが、昨日から3泊4日で旅行に行っています。久しぶりに長期の休みが取れたって言って凄く喜んでいました。やっぱり企業戦士は大変なんだなぁ・・・。

そして、久々の1人の夜が明けた朝、今日は土曜日。

穏やかな朝の日差しに包まれて目覚めた休日の朝、朝食を食べようとキッチンへ向かおうとするとガサガサとなにかを物色する音が聞こえる。1人のはずのこの家から。


・・・泥棒、だ。


寝起きのぽやぽやした俺の頭はそれを確信すると覚醒した。バクバクと鳴り高まる心臓が口から出てきそうだ。

リビング前まで来た俺はUターンして兄さんの部屋から竹刀を拝借した。

そして戻ってきて、今に至るというわけです。

竹刀を握りしめかれこれ10分リビング前に立っています。

・・・竹刀を待っていてもやっぱり怖いな。屈強な男だったら絶対に勝てない、何故なら俺は貧弱だから!

その時、がさがさ音に混ざって微かに咀嚼音が聞こえた。

食べている・・・?、であれば、動物という可能性もある?!

網?網なんて家にはない。いや、なら捕獲できないにしてもどんな動物か確認する必要がある。

覚悟を決めろ、宇都まひろ・・・!

兄さんがいない今この家を守るのは俺だけだ。

ぶるぶるも震える手でドアノブを掴む。汗ばむじっとりした手でドアノブが滑らないようにしっかり握り込む。そして、扉は・・・開かれた。

ガチャリ

音を立てて扉が開く。当然中のアンノウンにもその音は聞こえている筈だ。

ごくりと生唾を飲み込んでから、そろりと中を覗く。

相変わらずガサガサと物色する音も咀嚼音も止まらない。

キッチンの方に視線を向けると食べ物の包装紙が散乱している。

・・・掃除大変だぞ、これ。

キョロキョロと辺りを見渡すが大きい影は見えない。・・・と、なるとやっぱり動物かな?

冷蔵庫が開きっぱなしで、開きっぱなしの時に鳴るアラート音が鳴り響いている。

目を凝らして侵入者の姿を探すがここからだと分からない。

・・・どこにいるんだ?


竹刀を強く握りしめ、リビング内に足を踏み入れた。

・・・まずは冷蔵庫のアラート音を止めないと。

冷蔵庫に向かって歩いていくと、アラート音とは別にガサガサ音がそこからしていることに気づいた。

ぶわりと全身から汗が噴き出るような感覚がする。俺の脳内にはいろいろなスプラッタ映画やアニメのダイジェスト映像が流れる。

その時、冷蔵庫の扉からちらりと足が見えた。

これは・・・人間の足?しかも子供?

中段の野菜室に足を引っ掛けているようだが、つるっと片足が滑っては直しを繰り返している。

その様子を見て、俺の中の恐怖は疑問へと変わった。

・・・何故、子供が俺の家に?

竹刀をテーブルの上に置いて冷蔵庫に近づくと、そこには冷蔵庫に頭を突っ込んで食べ物を貪る幼女の姿がそこにあった。


・・・何故だ。


俺の頭の中に浮かぶ言葉はその一言だ。


「えっと、君・・・?」

声をかけるとその女の子はゆっくり顔をこちらに向ける。じいっと俺を見つめる瞳は「なんか用?」と言っているようだ。俺のことを見つつ食べる手は止まらない。

冷蔵庫の中はほぼほぼすっからかんだ。・・・え?これこの子が全部食べたの?


「とっ、とりあえず君そこから降りよっか!」

女の子を引っ掴んで冷蔵庫から下ろす。下ろす瞬間に冷蔵庫からその子はチーズを素早く手に取る。

食い意地が凄いな君は・・・?!


見た目の印象だと、幼稚園に入るか入らないかくらいの大きさ。桃色の髪をふたつのお団子頭にした髪型。身なりも汚れているといった印象ではない。あまつさえ、ちょっといい匂いするななんて思ってしまったし。垂れ目がちな少し眠そうな瞼は髪型と相まってなんだかパンダみたいだなって思った。


女の子を床に下ろして、自身も彼女の視線に合わせて屈む。子供と目線を合わせる、これが大切ってどこかの雑誌で読んだ。


「君、名前は?」

「んー・・・私『羽織』よろしくね。」

「羽織ちゃん。うん、俺は宇都 まひろ、だよ。よろしくね?」


よかった、どうやらコミュニケーションはとれそうだぞ。


「何歳?」

「この世に生を受けて早3年になる。」


え?3歳?・・・確かに見た目は3歳くらいだけど3歳児ってこんな感じで喋るっけ。なんだか違和感を感じる。

「えーっと、どこから来たのかな?お家は?」

「んーーー只管南にまっすぐ歩いてきたけど子供の足だしせいぜい同じ県内だと思うよ。」

「え、うん。そっか・・・?お父さんとかお母さんは?」

「しらなーい。」


むむ?訳ありかな。

それはともかくとして・・・

「というかなんでここに?」

「そこに冷蔵庫があったから。」

「そんなそこに山があったからみたいな・・・。」

「お腹すいちゃってー夜通し歩いてきたんだよ。」

「ええー・・・?!危ないよ!というかどうやって家に入ったの?俺戸締りちゃんとして寝たはずなんだけど・・・。」

「世の中には三角割っていう技があるんだよ。」


窓を見るとパタパタとカーテンが不自然に揺れている。・・・まじでやられてるなこれ。

周囲の様子もあって空き巣に入られたみたいになってる。犯人はこの女の子なわけだけど。

ううむ、これは警察にこの子預けた方がいいよね。


「羽織ちゃん、警察行こっか・・・」

「警察?!」


あ、やっぱり嫌がるかな・・・?

「警察なんて行ったことないから、行ってみたいー!いこ!!」

「へ?!あ、うん、じゃあ行こっか?」


なんだか不思議な子だな・・・。目を輝かせて警察署に行きたいなんてないよなぁ。あ、でも小さかったら警察とか憧れだしあるのかも?

彼女をおんぶして徒歩10分の距離にある警察署に向かう。

その間羽織ちゃんはあれはなに?これはなに?と街にあるポストやコンビニなどいろいろなものを指差して聞いてきた。子供のことはよく分からないけれど今が知りたい期みたいなものなのかな。


警察署につき、総合案内の人に声をかけてから数人の警察の人が入れ替わり立ち替わり、その人たちに説明して羽織ちゃんを預けた。


「じゃあね、羽織ちゃん元気でね。」

「ん、またねまひろ。」


バイバーイと手を振る羽織ちゃんにきっともう会うことはないだろうけどと思いながら手をふり返した。

警察署を出て、家の掃除と買い物をしないとなと思って少し憂鬱になり溜息をつく。

あの惨状をどうにかしないとなぁ。なんでこんな時に限って凪沙兄さんいないんだよ。


・・・この時の俺はまだこれからあんなことに巻き込まれるなんて微塵も思わず、暢気に空になった冷蔵庫を埋めるためにスーパーに買い出しにいくのだった。

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