レベリング

 そんなことがあった翌日、エルナの決定で俺たちは休日ということになった。

 基本的に冒険者はハードワークなので、依頼が順調にこなせているときは休みが多くなる。トロールの洞窟から持って帰った戦利品は結構高く売れたこともあって、俺も久しぶりにお金に余裕が出来た。


 いい装備を買ってもいいが、基本的にエルナとリネアが前線を守ってくれるので俺が攻撃を受けることはあまりないので防具はいらない。かといって、魔力をあげる魔道具は剣や鎧に比べて値が張るし、第一今でも魔力は過剰すぎるほどだ。そう考えると買いたいものはあまりない。


 それよりも俺は一つ気になっていることがあった。

 昨日、俺のヒールは仲間以外にもかけることが出来た。

 そして支援魔術師は魔法を使えば使うほどレベルが上がる。昨日の女はHPが減っていなかったからかいくらかけてもランクアップに近づいた感じはなかったが、HPが減っている誰かに魔法をかければレベリングが出来るのではないか。


 普通の魔術師だとすぐに魔力がなくなるため気軽にレベリングをすることは出来ないが、俺にはほぼ無尽蔵の魔力がある。

 とはいえ、人間の女性相手にヒールを使うのはあまりよろしくないし、回復した瞬間体力を減らして、ということをするのは非人道的すぎる。


 そう考えた俺は昨日の山に向かった。

 そこには例によってゴブリンがうろうろしており、時折遠くに巨体を揺らして歩いているトロールが見える。俺はゴブリンの中からメスと思われるゴブリンを何体か見繕う。


「ヒール」


 俺が魔法をかけるとキィィィィ、と嬌声が上がる。

 相手が魔物でもメスであれば魔法は効くらしい。


 ゴブリンたちは異変に気付いて俺の方に向かってきたが、その悲鳴を聞いたトロールが一体、ゴブリンの方へ向かってくる。

 それを見たゴブリンたちはヒールをかけた俺よりもトロールの方が脅威だと思ったのか、立ち向かっていく。


 だがトロールの棍棒によりゴブリンたちはなすすべもなく薙ぎ払われる。


「ヒール!」


 そこで俺は薙ぎ払われたゴブリンたちを次々と回復させていく。

 ゴブリンたちは何だこいつ、という目でこちらを見てきたが回復させてくれるなら誰でもいいと思ったのか、治るとすぐにトロールに向かっていく。

 知能が単純で助かった。


 当然トロールは何度でも棍棒を振るい、ゴブリンたちを薙ぎ払っていく。

 キィィィ、ギャアア、と汚い悲鳴が上がり、そのたびに俺はゴブリンたちを回復させていく。もっとも、回復できるのはメスだけなので次第に数は減っていくが。


 その後もそれを繰り返したが、俺の回復は十回を超えても全く衰えが見えない。無限に体力を全快して襲ってくるゴブリンたちにさしものトロールも疲労の色が見え始める。

 ゴブリンたちの数人は動きが遅くなったトロールに背後から近づき、ナイフのようなものを体に突き立てる。さすがのトロールもそれには少しずつダメージを喰らっていく。


「ん、待てよ?」


 そこで俺はふと気づく。ゴブリンと違ってトロールは腰のあたりにボロ布を纏っているので性別はよく分からないが、トロールも性別はメスかもしれない。


「ヒール!」


 確率は五分五分、と思って魔法をかけるとトロールの体がびくりと震えて変な声をあげる。どうやらこのトロールもたまたまメスだったらしい。


 それを見てゴブリンたちは「話が違う」と言いたげに俺を睨みつける。

 が、俺に襲い掛かる前に体力を回復させたトロールにより棍棒で吹き飛ばされるので俺に攻撃する暇はない。


「ヒール!」


 今度は俺はゴブリンに魔法をかける。

 ゴブリンは何かがおかしいと思いつつもトロールに襲い掛かる。こうして魔物同士の果てなき死闘が始まるのだった。


 それを何十回繰り返しただろうか、俺は一日で一気にDランクまでランクをあげることに成功した。

 Dランクから上はかなりランクが上がりづらいとは言われているが、一日でここまで上がる効率は破格だ。やはり魔力が無尽蔵というのが大きいのだろう。


 もっと体力がある魔物同士の戦いにうまく割り込むことが出来ればレベリングもはかどるのだろうが、あまり強い魔物だとこちらが襲われる可能性もあるから難しい。


 魔力はまだまだ尽きる気配がないが、さすがに体が疲れた。それにトロールとゴブリンも争いが無駄であることに気づきかけている。

 自分が襲われてしまえば俺の魔法ではどうすることも出来ない。

 頃合いだと思った俺は目をつけられないうちにその場を離れた。

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