リネアの真意

「はあ、はあ……危ないところだったわ、ありがとう」


 戦いが終わるとエルナは荒い息をしながらも俺に礼を言う。


「エルナこそ大丈夫だったか?」

「だ、大丈夫だったけど……あの魔法をかけっぱなしにするなんて頭がおかしくなるかと思ったわっ!」


 そう言ってエルナが真っ赤な顔で俺を睨みつける。

 ヒールで体力は全回復している以上、エルナの息が荒いのは戦いの疲労ではなく俺のせいなのか?

 が、すぐにエルナの視線は俺からリネアへと移る。


「こほん、まああんたの魔法に関しては今は置いておくわ。それよりもリネア」


 心当たりがあるのだろう、名前を呼ばれたリネアはびくりと体を震わせた。


「は、はい」

「何でこんなことをしたの?」


 俺は経験不足で知らなかったが、盗賊であるリネアならあの程度の罠でトロールを転ばせることが出来ないかもしれないことについても想像がついただろう。それなのになぜ、ゴブリンと戦っているときの不意打ちではなくこのような作戦にしたのだろうか。


「それは……トロールは自分の棲み処に人や他の魔物から奪った財貨をため込む性質があるんです」

「え?」

「ですから……それを持って帰れば多少の足しになるかと思いまして」


 リネアは申し訳なさそうに言う。

 が、エルナはそんな短い言葉からリネアの意図を察したようだ。


「つまり今回の依頼は報酬が少ないからトロールの棲み処をつきとめて、戦利品で報酬を賄おうとしたってこと!?」

「はい」

「それならそうと最初に言ってくれれば……」

「待ってくれエルナ」

「何よ!?」


 俺が口を挟むと、エルナは納得いかないと言う風にこちらを睨みつける。


「リネアがこんなことを企んだのはエルナが自分の報酬を犠牲にして依頼を受けようと言ったからだ。俺たちからすればそれを黙って受け入れざるをえないが、かといってそれで二人だけ報酬をもらうのも気まずい。だからリネアはこうするしかなかったんだ」

「もしかして、私がこんな性格だからリネアは……」


 俺の言葉に、エルナの表情に影が差す。

 それを見て俺は少し言い過ぎた、と思い直すことにした。


「いや、エルナが優しくて責任感があるって分かってるからリネアはエルナの言う通りにしつつ、エルナも報酬を受け取れるようにしようと思ったんだ」

「そ、そんな、優しくて責任感があるなんて……社交辞令はいらないわ!」

「何で同じパーティーの仲間に社交辞令を言わないといけないんだ」

「……そ、それはありがと」


 俺が本心で言っていることが伝わったからか、エルナは少し恥ずかしそうに小声でお礼を言う。

 そんなエルナにリネアは頭を下げる。


「ごめんなさい! 私が勝手なことをしたせいでエルナを危険にさらしてしまって」

「いいのよ、リネア。そもそも私が無茶言い出したのが発端だから」

「それは私たちも一度合意したことです。それから、ありがとうございますアルスさん。もし私のおかげでエルナが怪我したらと思うとぞっとします」

「いや、そんな」


 危なかった、どうにかエルナを救えたのも良かったが、もしこれが二人だけだったら、お互いの思っていることがうまく伝われずに喧嘩のようになっていたかもしれない。

 そう思うと今回はひとまずうまくいったことにほっとする。


「ま、まあ今回はお互い良かれと思ってやったことが両方裏目に出てしまったということで水に流さないか? 別にどっちが悪いという問題でもないと思うし」

「……でも、あんたはいいの?」

「え、何が?」


 エルナに尋ねられて俺は困惑する。

 別に俺は今の話に困ることはなかったが。


「だって、いつもあんたのこと色々言っていた割に独断でこんなこと引き起こしちゃったし。あんたからからすれば臨時で入っただけなのにこんなことに付き合わされて……」


 確かに金儲けやランク上げ至上主義の冒険者であればこういう依頼の受け方は不満に思うかもしれない、と言われて初めて気づく。


「確かに臨時で入っただけだけどそんな風に言うなよ。大体二人だってこんな魔法を使う俺を喜んで受け入れてくれてるだろ。それだけで十分嬉しい」

「べ、別に喜んではないわ! あんな変態魔法!」

「いや、そういう意味じゃなかったんだ!」


 エルナが叫んだおかげで何となく話はオチた感じになる。

 俺だって別に自分の魔法をエルナが喜んでいるとは思っていなかったが、こんな風に必死に否定されるとちょっと図星なんじゃないか、と思ったがそれは胸の内にしまう。


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