エルナは情に弱い

 翌日、ヒールによる酔い醒ましのおかげで二人とも二日酔いになることもなくギルドに集まっていた。


「さて、臨時とはいえメンバーも決まった以上、早速仕事を探すわ。幸い私たちも戦力だけなら相当だし、割のいい仕事も受けられるんじゃないかしら」


 そう言ってエルナはギルドにある依頼の束をめくっている。

 俺はあまりエルナに好かれていないように感じていたが、それと仕事は別ということだろうか、エルナは当たり前の俺をパーティーの一員として認めてくれているようだ。


 俺とリネアも貼り出されている依頼を見てみる。依頼には客から出されたもの、領主から出されたもの、ギルドから出されたものの三種類がある。それぞれに対してギルドはきちんと難易度を算定しているが、客から出されたものは依頼主側の都合で報酬がばらばらだ。難度が高そうでも、依頼者がお金がなければ報酬は安めでずっと売れ残っている。


 ギルドから出されたものは主に素材収集が多くて、きちんと難度と報酬が比例するようになっており、最後に領主から出ているものは大規模な魔物討伐が多くて個人では厳しいが、報酬も高い。


 そんなことを考えつつ依頼を見ていると、不意に後ろから言い争うような声が聞こえてくる。


「すいません、どなたか私の依頼を受けていただけませんか? どうしても薬草が必要なんです!」

「いや、でもこれ危険な割に報酬が安すぎるし……」

「ギルドの常設採集クエストの方が絶対に割がいいからなあ」

「俺たちも生活がかかっているからな」


 見ると、一人の少女が泣きながら周囲の冒険者に頼んで回っているが、みな微妙な反応をしている。

 少女は誰彼構わず声をかけているのだろう、次は俺の元にやってくる。


「お願いします、今すぐこの薬草が必要なんです! これがないとお母さんが死んでしまうかもしれないんです!」


 そう言って俺に依頼の紙を見せてくる。安価で流通しているものよりも少し稀少な薬草を採ってくるだけなのだが、ギルドに指定された難度はCなのに報酬は相場の三分の二ほどしかない。恐らく薬草が生えている場所にそれなりに危険な魔物が出るのだろう。


 助けてあげたいが、俺一人でどうにかなることならともかく、エルナとリネアの二人を低報酬で危険な依頼に付き合わせる訳にもいかない。


「どうしたの?」


 すると依頼を見ていたエルナが、少女の泣き声を聞きつけたのが口を挟む。

 俺は黙ってエルナに紙を見せた。

 するとエルナもすぐに事情を理解したのか、溜め息をつく。


「お願いします!」


 少女はエルナにも必死に頭を下げている。

 それを見て俺は少しやるせない気持ちになった。

 が、エルナはそれを見て溜め息をつく。


「仕方ないわね、私たちがどうにかしてあげるわ」

「いいのか?」


 それを聞いて俺は少し驚く。とはいえ、一方ではエルナならこれを受けるのではないかという予想も心のどこかにあった。


「ええ。大丈夫、これは私の独断だから。あんたへの報酬はちゃんと出すわ」

「それはどういう……」


 俺は一瞬エルナの言っている意味がよく分からなかった。

 するとリネアが小声で耳打ちする。


「エルナは自分が報酬を受け取らなければ私たちが報酬を受け取れると言っているんです」


 確かに相場は安いが、俺とリネアで山分けするならちょうど相場ぐらいの報酬にはなる。エルナは自分の我がままで損な依頼を受ける以上損も自分で被ろうと思っているのだろう。


「いや、さすがにそれは……」

「でも私は彼女を見捨てたくない! それにあんたもリネアもお金に困っているのはよく分かっているから、仕事に見合った報酬は出したい。私はあんたたちよりも貯金があるから一回ぐらいは大丈夫よ」


 確かにエルナの言っていることは正しい。

 俺は納得いかなかったが、だからといって俺も報酬を辞退するというほどの余裕はないし、少女の頼みを断ろうというほどの冷酷さも持ち合わせていない。


 俺は助けを求めるようにリネアを見るが、彼女は小さく「考えがあります」と言って頷く。リネアがそう言うなら何か妙案があるのか、と思って俺は頷いた。


「……分かった」

「じゃあ決まりね」

「ありがとう!」


 それを聞いて少女は歓声をあげる。

 エルナはそんな彼女の頭を優しくなでたのだった。

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