(改)俺の支援魔法には副作用がある ~高飛車な女剣士もクールな女盗賊も俺の魔法にゾッコンなんだが~

今川幸乃

俺の魔法には副作用がある(試読用)

「よし、突入前に強化魔法をかけるぞ」

「うん♡」「はい♡」


 俺が声をかけると、エルナとリネアからはまるで強化魔法の返事とは思えない、艶っぽい返事がある。


 ここは稀少な薬草が群生している森の奥。しかし薬草の群生地には冒険者だけでなく様々な動物がやってくるためか、キングアナコンダがとぐろを巻いて周囲に目を光らせている。


 キングアナコンダは全長五メートルほどはあるだろうか、牙には毒があり、牙だけでなく胴体により締め上げ攻撃も脅威と言われている。

 そんな魔物と戦うのだから念入りに強化魔法をかけなければならない。


 そういう真面目な気持ちで俺はパーティーの二人、剣士のエルナと盗賊のフィオナに声をかけた訳だが……


 普段は凛として気高く、俺に対して高飛車な態度をとる剣士のエルナも、冷静でどんな罠も解除してみせる凄腕のリネアも、二人とも息が荒いしこちらを熱っぽい表情で見つめている。


 どう見てもこれから危険な戦闘を行うというテンションではない。

 またこれか、と思いつつ俺はエルナから魔法をかける。


「エンチャント・ウェポン」


 俺が呪文を唱えると、魔力がエルナの体を包む。

 そしてエルナの剣には魔法の加護が与えられる訳だが。


「ひゃあんっ♡ すごい、(魔力が)全身を包み込んで体中ぞくぞくするのっ♡」


 明らかによからぬ声をあげる。

 回復魔法をかけられたときのリアクションとしては明らかにおかしい。

 それを聞いて俺は毎度のことながらどうしていいのか分からずに困惑してしまう。そして仕方なくリネアの方に目を向ける。


「よ、よし、次はフィオナだ」


 が、リネアはリネアでエルナの様子を見て期待に目を輝かせている。


「わ、私も早くお願いします……」

「分かった、エンチャント・ウェポン」

「んんっ、あっ、ん……これ、いい♡」


 一方のリネアは魔法がかかると、エリナと違って懸命に目を閉じて声を堪えようとしているが、それでも体が小刻みに震えて声が漏れ出てしまっている。


 それを見て俺はため息をつく。

 これから戦闘だというのに何か精神的にすごい疲れてしまった。本当に大丈夫だろうか。


「よ、よし、気を取り直していくぞ!」

「うん!」「はい!」


 魔法をかけ終わると、二人は先ほどまでとは打って変わって凛々しい表情に戻る。さすがはプロの冒険者だけあって切り替えはちゃんとできるらしい。

 毎度のことではあるが驚いてしまう。


「行くわよっ!」


 まずはパーティーのメインアタッカーであるエルナが大剣を抜いて斬りかかる。それに対して大蛇は牙を剥きだしにして迎え撃つ。牙だけで短剣ほどの大きさがあり、しかも猛毒まであるという。


 カキン、と甲高い音がしてアナコンダの牙とエルナの大剣が交錯した。

 すぐに両者間合いをとり、再び牙と剣が交錯する。


 そんな撃ち合いが数合続いた。

 強化魔法がかかっているとはいえ、こんな大きな蛇相手に互角に撃ち合うエルナはすごい。アナコンダは牙だけでは長引くと見て体を動かし、エルナを締めあげようとする。


 その隙にリネアが短剣を抜いてキングアナコンダの背後に向かう。

 そしてアナコンダの鱗の隙間に短剣を突き立てる。


「ギェェェッ」


 アナコンダは不気味な悲鳴をあげる。

 しかし致命傷にはならず、びくりとのたうち回るように体を動かした。


「きゃあっ」


 身のこなしが軽いリネアは咄嗟に避けるが、牙ばかりに意識が向いていたエルナは迫りくる尻尾を避けきれずに、腰の辺りを強打されてしまう。


 バシンッ、という鈍い音とともにエルナの体は舞い上がり、近くの木に叩きつけられた。

 剣士という職業の補正と鍛錬で丈夫になっているとはいえ、あの勢いで叩きつけられては無事では済まないだろう。


「大丈夫か!?」

「……」


 俺が声をかけるが返事がない。今こそ俺の出番だ。


「ヒール!」


 慌てて俺が魔法をかけると、ぐったりと倒れていたエルナの体はびくん、と震える。


「ひゃあんっ! すごい、これすごすぎてだめぇっ♡」


 エルナは叫びながら起き上がる。

 衝撃で意識を失っていたのに瞬く間にエルナは完全回復した。普通のヒールだと意識を取り戻すのがやっとか、治るにしても数十秒の時間がかかってしまうので、すごい魔法ではあるのだが……。


 起き上がったエルナはこほん、と咳払いしてアナコンダを睨みつける。


「よくもやってくれたわね!?」


 彼女はすぐにアナコンダにやられた恨みを原動力に剣をとり、斬りかかった。

 アナコンダはエルナは再起不能とみたのかリネアを追い回すのに夢中になっていた。リネアは軽快な身のこなしで攻撃を避け続ける。


「喰らえっ」


 そこへエルナは一思いに大剣を振り降ろす。


「グェェッ」


 エルナの一撃はアナコンダの首へ深く食い込み、悲鳴と共に盛大に血が噴き出す。

 それを見てリネアは止めとばかりに、エルナが切り裂いた傷口に正確に短剣の一撃を叩き込む。


「グエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ」


 リネアの攻撃を受けてを受けてアナコンダはさらに大きな悲鳴をあげ、その場に倒れる。五メートル以上の巨体が地面に倒れたため、辺りにずしりと音が響き渡る。

 それを見て俺たちはほっと息を吐く。


「ありがとう、今回も“いい”魔法だったわ」


 俺を振り返ってエルナが意味ありげに言う。

 が、なぜかリネアの方は不満そうな表情だ。


「今回エルナは二回魔法をかけてもらってましたが、私は一回だけでした」

「え?」

「これは差別じゃないでしょうか」

「いや、回復魔法というのはダメージを受けた人にかけるもので差別とかじゃないと思うのだが」

「う、痛い……さっきかすっていたアナコンダの攻撃が今になって効いてきました……」


 不意にリネアは腕を押さえてしゃがみこむ。


「ちょっとリネア、まだ任務は終わってないのに何してるの!?」


 当然それを見たエルナは声を荒げる。

 俺も同じ気持ちだったが、リネアは諦める気配がない。


「大丈夫です、私の索敵によると周囲に敵はいません……でも痛くて死にそうです……」


 いつもは冷静で合理的な判断を下すリネアの行動とはとても思えない。


「帰り道に強敵が出るかもしれない以上魔力は無駄遣いは出来ない。帰ったら魔法をかけてやるから今は我慢してくれ」

「はい♡」


 それを聞いてリネアはそれまでに痛みはどこへやら、晴れ晴れとした表情で立ち上がる。

 それを見て俺はため息をつく。



 最初に二人と出会った時は高飛車な剣士と気難しい盗賊というイメージだったのに、何でこうなってしまったんだ。


 そして俺は二人と出会いを思いだす。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る