第8話 兄の登城

早急にリサに会いたいと父から連絡がきた。


父の心情はわかる。

物騒なことが起こった後なので、降って湧いたリサのことを実際に見て判断したいのだろう。


「もう、何か隠しているようなことはないな!」

フォローするのはコーテッドなので、後からぽろぽろ秘密が出てくると困るのだ。


「・・・・・」

リサはじっとこちらを見ていた。

その顔はとても不安そうだった。


「怒らないから話してみなさい」

コーテッドは優しく言った。

「何だかおかあさんみたい・・・」

心配してやっているのにとムッとしたが、黙って口を開くのを待つ。


リサは意を決して話し出した。

ここではない別の世界から来たのだと言う。


そんな奇想天外なこと、俄かには信じられない。


「証拠と言われても困るんですけど・・・信じるか信じないかはあなた次第です」


コーテッドは大きなため息をついた。

長く時間を一緒に過ごしたので思い当たることは無くはない。


でもこんな話、信じられるわけもない。

それを信じると『空からの使者』だということも妙に現実味を帯びてくることになる。


コーテッドは伝承の人というのは、もっとこう神秘的な感じなのだと思っていたのだ。

だからリサのように口が立ち、すぐに人に触れたりするような世俗的な人だとは、どうしても思えないのであった。


父に嘘をつくのは大変心苦しかったが、リサには『結び』で指示した通りに話してもらったので、何とか怪しまれることはなくやり過ごせた。



話が済みリサが退出すると、変わりに長兄のゴールデンが入ってきた。

息子二人を前にし、父が口を開いた。

「今日、子爵と話をした」


どうやら昔チャウ様を担ぎあげようとしていた連中がよからぬことを企んでいるということだ。


「これを」と言って取り出したのはチャウ様本人からの手紙だった。


そこには亡くなったオーナー4世には実は息子がいたこと。

その子を国王に祭り上げようとしている計画があること。

そのために後継者の証を手に入れようと躍起になっていることが書いてあった。


「では子爵はその一派なのですね?」

兄が確認をする。


だが父は首を振った。

「子爵はチャウ様からの手紙を確実に私に届けるために、わざと事件を起こしたのだ」


「ですがこんな人騒がせなことをしなくても、頼まれれば私から父上に届けたのに」

コーテッドは子爵にそんなに信用されていなかったのか、と不服そう言った。


「頼まれた手紙をお前が自らここまで持ってくるか?誰かに頼むだろう?」

「それは・・・」

サモエド様を放っておいて、一人で王都に来るなど有りえない。


言葉に詰まったコーテッドを見て父は続けた。

「そういうことだ。そして同時に警告もしてくれた」


後継者の証は承った人に管理責任がある。

だから盗まれたりしたら、その地点で後継者として失格になるという訳だ。


今回は強盗未遂で終わったが、いつ誰がどんな手段を使ってくるかわからない。

今後こういうことがないように細心の注意を払わなくてはならない。


数日後には次男のスピッツ様も兄のラブラも来るから、今後のことをきちんと話し合おうということになった。


詳しい事がわかった今、一刻も早く帰ってサモエド様の邸宅の警備の見直したいところだがそうもいかなかった。


1週間後に女王の誕生パーティーがあるので、せっかく王都にいるのだから参加しなくてはいけないらしい。

いつもはそのような行事に参加などしたことのないコーテッドだが、今回は父に居るように頼まれたから仕方がない。


大体、このような非常時に呑気にパーティーなど開いているときじゃないだろう!と思うが、招待状などを送った手前、中止にするわけにもいかないらしい。


たくさんの貴族がくるということは、その謀反を企む一派も現れるに違いない。



父と兄は招待状を送った人物の最近の動向を調べたり、警備の手配を考え直したりと、それは忙しそうにしている。


お陰でサモエド様と共に、第二王子であるスピッツ様の出迎えに駆り出された。

実はコーテッドは兄のラブラもスピッツ王子も少し苦手だ。


先ほどから、今回の経緯を説明をしている間も、スピッツ様は伴ってこられた婚約者のペギニーズ様とベタベタいちゃついている。


その様子を見て、サモエド様がこの場にいらっしゃらなくて良かったと安堵している。


兄は目を瞑って黙っている。

『聞いてるのか?!』と言いたくなるような態度だ。


「報告はそれだけか?」

兄がこちらを見た、コーテッドはそうですと頷く。


「父が帰ってこいと言うから、もっと大変なことでもあったのかと思っていたが・・」

十分に大変なことが起こっていると思うが、兄には不満だったらしい。

「ここの牢屋に5人ばかりお客様をお連れした」


驚いたことにサモエド王子が襲撃されるよりもずっと前に、スピッツ王子のところには叛意のある人物から接触があったらしい。


マルチーズ王子とサモエド王子が仲が良いのは周知の事実だが、スピッツ王子は二人とはいつも距離を取っている。

だから抱き込めると踏んだようだ。

二人は謀反に加担するフリをして、謀反人の信頼を得たところで全員を捕まえたらしい。


「・・・・・・」

急な展開にコーテッドは声が出ない。

あっけなく今回の騒ぎが収束したように思える。


「他にもまだ残党がいるかもしれないから、パーティーまでは気を抜かないほうがいいぞ」

ラブラはウィンクを寄越した。


「兄ちゃんに負けてくやしいか?」

こーいうところがなければ尊敬できるのにと、コーテッドは兄を睨む。


「お前、それより面白いヤツ連れてきているらしいな」

「?」

「シラを切るな。『空からの使者』だって?」

兄は完全にバカにしたように言ってきた。


リサの能天気な顔を思い出す。

あいつが兄上に見つかったら、何を言われるかたまったものじゃない。


『何が何でも兄とリサを会わせないようにしないといけない!』

コーテッドは気をつけなければと、しかと心に留めたのだった。

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