第6話 犯人


「正直に話しなさい」

コーテッドがメイドに近づくと頬を赤らめ、視線から逃げるようにそっぽを向いた。


その様子にピンときたリサは結びでコーテッドに指示を出す。

『もう一押しです。『美』の特性にやられてますよ。

瞳を見つめて手でも握って、話してくれないと困るとか言って落として下さい。

ゆけ!天然タラシ!』


コーテッドはムッとリサを見たが、王子のためだと腹をくくる。

彼女の手を取り瞳をじっと見つめた。


「君のすべてが知りたいんだ」


その言葉にリサはずっこけた。

『なにエロいこと言って口説いてるんですか!『全てを話してほしい』でしょうが!』


コーテッドが言い直すよりも早く、彼女は罪を認めた。

そして洗いざらい、ぺらぺらと話してくれた。

ここに来ている御用聞きに盗みをしていることが見つかり、黙っててやるかわりに見つけてほしいものがあると頼まれたこと。


勿論、後継者の証のことだ。

その男は毎週決まった曜日に来ることになっている。

それが今日の夕方であること。


「男には頼まれた物を今日渡すと話しているのか?」

「言ってないです」

「じゃあ、毎週見つかったかと催促されていたのか?」

それが・・と言葉を濁した。


ここで盗んだものを男に渡すと現金に換えてきてくれていたらしい。

しかも市場よりも高く換金してくるので有難かったと。


盗んだ物をリサの部屋に保管してあったのは、彼女が一番犯人に仕立てやすそうだと思ったからだそうだ。

それを聞いてリサは怒り狂っていた。


その日の夕方にのこのこやって来たのは、あの行商人の男だった。


そこからはピンシャーの独壇場だった。


昼のメイドの時は、コーテッドとリサに美味しいところを持っていかれてしまったが、今回はあっという間に男を自白させたのだった。


賊共に依頼して王子を襲わせたこと。

後継者の証を探していただけなのに、考えなしのバカ共が暴走してひどい目にあったこと。

次に女を脅して家の中を探らせていたこと。

女をつなぎとめておきたいために、わざと盗品を高く買い取っていたこと。


そして、それを命令していたのが、あのグレーヘアーの子爵だったこと。



連れてこられた子爵はあっさりと罪を認めた。

だがその目的については一切口を噤んだ。


ピンシャーの『自発』も会話の中でこそ効果を発揮するものなので、黙りにはお手上げだった。


「まさか、あの方が!!そんな、信じられない・・・」

王子は子爵を信頼していただけあって、とても落胆していた。


さすがに後継者の証の強盗未遂ともなれば、国王のオーナー5世をはじめ右腕を務める父にも黙っているわけにもいかなかった。


王子は理由をきいてから知らせたかったようだが、そんなわけにはいかなかった。

すぐに王都からは『子爵を連行するように』との連絡がきたのだった。



サモエド王子が治めるこの街から王都までは馬車で1週間ほどかかる。


王子の気持ちを察してか、先ほどから馬車の中は重苦しい雰囲気だった。

子爵はもちろん別の馬車に乗っている。


リサは空気に耐えられなくなって話し出した

「なぜ私も王都に行くことになったんでしょうか?」

「父上や母上、それに兄上にも是非リサを紹介したいんです」

王子が答えた。


「やはり、リサは空からの使者だよ。また僕を救ってくれた。

本当にありがとう」


お礼を言われるほど何かをした記憶はないけど、王子の顔が明るくなって良かった。

そんな王子を見て、安堵の表情を浮かべるコーテッドの顔がさっきからチラチラ視界には入ってきていた。


この人たちに恩を売っておいたら一生、路頭に迷うことはなさそうだ。


現王であるオーナー5世は女王様。

そうサモエド王子の母上だ。

4世は男児に恵まれず、5世が王位につくときは反対する人もたくさんいて揉めに揉めたらしい。


こういう権利争いや、女性軽視ってのはどこにいってもあるもんだ。

でもオーナー五世は人気が高いらしい。


さらに皇太子であるマルチーズ王子の奥さんのパグ様、すなわち時期お妃様になるであろう方は平民出身。

身分を超えての婚姻でマルチーズ王子も人気があるらしい。


だが、それを許した女王も寛大な方だと、庶民からの人気は絶大らしい。

だから反対していたお貴族様達も黙るしかないんだって。


いい機会だからと、リサは以前から気になっていたことを訊いてみる。

「そういえば、皆さんおいくつなんですか?」


王子は18歳と思っていたとおりだった。

が、コーテッド様が21歳は老けすぎだろう。

私より3つも年下って。


だがもっとびっくりしたのがピンシャーさんだった。

32歳だそうだ!

どうみても顔は中学生ぐらいにしか見えないんだけど!

子供の顔にボディビルダーの身体がくっついた感じ。


しかも同じ顔の子供がいて兄弟にしか見えないらしい。

面白そう!見てみたいな〜。

やっぱりお子さんもムキムキなのだろうか?

「それはない!!」

意外に強いツッコミで返された。


ピンシャーさんは身体を作る大変さと、それを維持するための心得を唱えだした。

あっ、そっち系の人だったのね。

だったら話は早い。

「筋肉を見せてくださいよ」と有難い心得に割って入る。


よくぞ言ってくれました!とばかりに上着を脱ぎだす。

鍛え上げられた筋肉はまさしく努力なくしてはできない代物だ。

「触ってもいいぞ!」

弾んだ声はどちらかと言うと、触って褒めてくれと聞こえる。


「すごい・・」

心の底から出た感嘆の声だ。

「こっちはもっとすごいぞ!」

大胸筋まで見せてきた。


確かにおっぱいとは全く違う手触りだ、しなやかな硬さがある。

どうやったらこんなに成るんだろうか。


『おい、いいかげんにしろ!サモエド様の前だぞ。』

コーテッドに結びで声をかけられて、リサは我に返る。


王子は顔を赤くして、困ったように俯いている。

今のリサは、前をはだけた男の胸を触ってるイヤらしい女にしか見えないことだろう。


『ほら、さっさと離れろ。何考えてるんだ。ふしだら女め!

ピンシャーの嫁に言いつけるぞ、そいつの嫁めちゃめちゃ強いぞ!』


容赦ない言葉が頭の中にガンガン入ってくる。

なんで私ばっかり怒られなきゃならないのとピンシャーさんのほうを見たら、さっさと着衣して何事もなかったように涼しい顔をして座っていたのだった。


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