『もうそうへき』

やましん(テンパー)

『もうそうへき』

 (これは、作者の妄想による、フィクションです。)





 むかしむかし、ある、小さめな、くにの話である。  




大臣壱


 『国王陛下が、国境に高い城壁を作れと、急に申されまして。しかも、半月で。まいったよ。ちょっと、意見しかけたが、できないなら、すぐ、首を切るぞ、ですからな。ま、いつものことながら。』



大臣弐


 『困りますな。予算がない。隣国からは、はでに、批判されてますし。国王どおしが、仲が悪いからなあ。相手は、戦争する余裕はないしな。うちも、そうだ。でも、国王さまは、強気だ。』



大臣壱


 『さよう。しかし、陛下の意に添わないと、確かに首が飛ぶ。何人、これまでに、大臣の首が飛び、家族一同が殺されたことか。いや、なんとかしなければ。』



大臣弐


 『仕方がない。もうそうへき、をつくろう。』



大臣壱


 『もうそうへき?』



大臣弐


 『さよう。目には見えない壁ですな。全国民に、御触れをまわします。国境には、目には見えない、もうそうへき、という壁を作った。許可なく通ろうとしたら、恐ろしい天罰が下るであろう。と。』



大臣壱


 『そりゃあ、むちゃくちゃですなあ。だれも、信じないし、第一、となりの国からは、笑われるだけですぞ。もし、実際に天罰などでっち上げたら、それこそ、神罰が下りましょう。』



大臣弐


 『まあ、しかし、壁を一月で作るなど、鬼でもなければできまい。しかし、陛下は、納得しないだろう。絶対に。もうそうへき、しかない。』



 すると、祭祀官がやって来た。



 突然、どこからか、現れて、不思議な魔法で、国王に取り入った、やなやつである。



祭祀官


 『おこまりのようですな。もし、よろしければ、わたくしが、その、もうそうへき、を築きましょうか。』



大臣壱


 『なんと。申される。そのようなこと、あるはずがない。』



祭祀官


 『なに。見えればよいのですよ。実際に。』



大臣弐


 小バカにしたように………


 『それができるなら、苦労などしない。それとも、あなたには、魔法で、できるとか?ははははははあ。』





祭祀官


 『さようですな。まあ、そうでしょう。準備に少し時間はかかりますが、できるでしょう。あなた方が、部下の犠牲を作るなどという、ばかげた必要がなくなる。』



大臣弐


 『むむむ。しかし、うまく行かなかったら困りますな。ならば、一週間で、やってください。』



大臣壱


 『そりゃ、あなた、ちょっと、どうかと。』



大臣弐


 『陛下の祭祀官どのなのだから、出来て当然であろうがな。それとも、二人揃って、切腹といきますかな。』



大臣壱


 『いやあ、それは、困るが。』



祭祀官


 『あははははは、まあまあ、わたくしが、引き受けましょう。売店やレストランがある、大船に乗ったと、お思いください。はははははは。ただし、準備のため、少し、消えますぞ。』



大臣壱


 『れし、とらん。? 召し取ったり、ですかなあ。』



 大臣ふたりは、意味がよくわからなかった。


 しかし、こう、付け加えた。


『もし、我らを計りごとにはめたり、あるいは、逃げたりしたら、例の、彼女の命がないと思ってほしい。』




      ・・・・・・・・・・



 祭祀官は、ちょっと危険だが、自宅に帰った。


 政府の秘密警察が、はりついているはずだから。


 しかし、あの世界との通路は、地下に設置した。


 まず、大丈夫だろう。


 かの国の国境、約15キロメートルにわたり、高い塀の空間映像を実体化させることは、そう、難しくはない。


 問題は、その、エネルギー源である。


 水車くらいしか、動力がない世界だ。


 反重力電池を持ち込むしかない。


 まあ、あれは、ほかの役にもたつが、あの世界には、まだ、それほどの使い道はない。


 下手すると、広い地域が、吹き飛ぶかもしれないが、障らなければ祟りはない。


 豊富なエネルギー源だから、侵入しようとしたものを、感電もさせられる。調整したら、焼き殺すことも可能だが、そういうのは、一応、出来ないようにしてやろう。


 まあ、国際時空間移動法違反、危険物移動禁止法違反、ではあるが、どうせ、自分は、こちらでは、お尋ね者だ。


 祭祀官は、必要な道具を、さっさと揃えた。


 ついでに、コーヒーメーカーを荷物に加えた。太陽電池で、駆動するやつだ。


 『まあ、あんな長居になるとは、思ってなかったが、それもよかろう。ここにも、あそこにも、未練はないさ。ひとつ以外は。』


 祭祀官は、再び出掛けようとした。


 すると、地下室の、反対側の、やや暗い柱に持たれている者に、やっと、気がついた。


 『おやあ。お帰りですね。でも、もう、お出掛けかしら?』


 それは、元婚約者だった。


 いまは、残忍な、あの独裁者の妻になっている。


 『きみだけかい? 警備ロボットくんたちは、連れてないのか?』


 『ない。まさか。あなたは、あたくしを、低く見すぎるわ。』


 『きみに、言われる筋合いはない。』


 『まあ、ごあいさつですこと。首相は、あなたを必要としていますよ。あなたは、強情だから、逮捕命令を出したけど、科学技術省の、最高技官に取り立てるつもりです。給与も、大臣以上とか。ぜったい、わるくないわ。あたしたちにとっても。』


 『世界制覇しよう、なんてやつには、協力しない。その、信奉者にも。』


 『どこにいっていたにせよ、相変わらずね。でもね、あなた、時間制限があるんだからね。あなたの体は、異世界では、次第に崩壊するわ。もう、あきらめて、自分の世界に帰りなさい。いえ、帰ってきてほしいの。わかる?』


 『まあ、気ぐらいの高い君だ。なにかあるんだろう。おおかた、あの首相が浮気したとかだろうが、独裁者に浮気は付き物だ。ぼくは、添え物になる気はないな。まあ、がんばれ。君が選んだ道だ。最後まで、つらぬけ。』


 『待って、行かさないわ。やり直しはできるわ。無理矢理でもね。ロボットはいないけど、ごきごき兵士がいる。さあ、あいつ、捕らえなさい。』


 巨大化した、多数のごき軍団が彼を襲ってきた。


 『はははははは。わるいな。だいたい、予想はしていたさ。君は、ごき使いだからな。あ、その床、ごきごき軍団は、滑って進めないよ。じゃね。元気でね。早死にするなよ。』


 あちらの世界の祭祀官殿は、すでに、荷物は入れた空間トンネルに、さっと入ったが、その入口は、すぐに閉鎖された。


 彼女は、壁に追いすがるのが、精一杯だった。



 この空間トンネル自体は、むかし、誰かが作ったものらしい。


 作者は誰が作ったのかを知っているが、彼は知らない。


 これは、正しく使えば、どんな時空間にも、往くことが、可能らしい。


 彼の出身時代の、技術の、遥か先を行っているものだ。


 独裁者は、彼が発明した、まだ、不完全な時空間跳躍装置を使って、世界支配に、役に立つだろう彼が、脱走などしないように、その身体にある処置をした。


 異空間に移動すると、やがて、肉体の崩壊が始まる。


 残酷なやり方だ。


 その、解除方策は、まだ、彼にはみつからない。



 ごきごき軍団は、床の上で、ダンスを繰り返していた。



    ・・・・・・・・・・・・



  近代的な独裁者と、中世的な独裁者の、何が違うか?


 祭祀官は、思う。


 『なにもちがわない。違うのは、個人差と、武器だけだ。どちらも、単独の独裁者は弱い。いつも一人で、孤独だから、倒されたらおしまいだ。まあ、しかし、実際には、それが、なかなか簡単ではないがね。』



 さて、祭祀官が請け負った、国境の壁は、見事な出来映えだった。


 いくらか、調整は要したが、予定よりも早く、国王はその驚くべき姿をみた。


 ためしに、罪人(政治犯だが)を、歩かせると、壁を跨ごうとした瞬間に、気絶した。


 何人か、まとめて歩かせたが、みな、同じ結果になった。


 国王は、いたく感心し、だいたい、満足したらしい。


 丸焦げにならないことだけが、不満だったらしいが、そこは、当面我慢したようだ。


 祭祀官は、長期休暇を願い出て、こちらで出会った、ある、女性とともに、旅に出た。

 

 それに際し、地中に埋めた電源には、絶対に触れないようにと、言い残した。


 守らなければ、恐ろしい災いが襲うだろうと。




 その先のことは、もう、今となっては、分からない。


 まだ、人類がいた、はるかな、昔の話であり、ごきたちが、ひそかに語り継いでいる。


 


 


 


 

 


 


 


 


 

 


  

 


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『もうそうへき』 やましん(テンパー) @yamashin-2

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