第4話 夜な夜な
真っ暗な夜。
逃げる足音。
たったったっ。
石畳を駆ける。
おそらく、ハイヒール。
「いやだっ いやだっ 誰か助けて……!」
『逃げる事は許されない』
重々しい足音。
どすんどすん。
石畳を砕く。
おそらく、ルーガルー。
「どうして、どうして私なの、私なにも悪い事してない。助けて助けてよぉ!」
『死とは決定事項なのだ』
終わりが迫る。
三メートルを超える巨躯。女性の目の前に立つ。
路地裏、行き止まり、追い詰められた。もう逃げられない。
「助けて、お願い、助けてぇ……」
『死がお前の救いとなるだろう。
肉の潰れる音が響き渡った。
●
ジェヴォーダン対ルーガルー特攻課第二支部。眠りこけるブレーズ。セシルはせっせと書類整理をしていた。
「仕事の時間だオラァ!」
ダミアンが扉を蹴り飛ばして入って来た。
「課長、だから言ってるじゃないですか、扉は普通に開けて下さいって……」
「馬鹿め後輩、何度言っても無駄だ。ソースは俺」
「嫌なソースだなぁ……」
「諸君、昨日もルーガルーによる被害が出た。場所は第三再開発地区」
そこでブレーズが首を傾げた。
「再開発地区ぅ? そんなとこに人が? 工事の人とかですか?」
「いや、再開発地区外に住む女性だ。ただし原型をとどめないほどに潰されていたが」
「……なんすかその胸糞悪い話」
「先輩……」
「そこでだ! 今回支給される新型対ルーガルー特攻兵装を装備して、再開発地区の調査にあたってもらいたい!」
「いいっすよ」
「先輩が二つ返事!?」
驚きにセシルが目を見開く。口も大きく開けていたが、そこは手で隠す。乙女の嗜み。
二人は早速、ダミアンが持って来た新型兵装に袖を通す。それはもはや軍服だった。形態する銃も特製のサブマシンガンだ。セシルが装備するのは――
「うわすごい! 高周波ブレードですよ先輩!」
「んな物騒なもん今起動させるな!!」
「うむ、心配いらなそうだな。作戦決行は今夜零時。頼んだぞ」
ブレーズとセシル「「了解」」
二人は声を揃えて返事をした。
●
時は流れ深夜零時。再開発地区へと乗り込んだ二人。そこは圧倒的な闇だった。こんな場所で襲われたらひとたまりもない。暗視ゴーグルを装着する。完全武装だ。
「クリア」
「こっちもクリアです先輩」
「クリアだけでいいっつの」
その時、足音が聞こえた。たったったっ。
「人……?」
「追いかけるぞ」
足音は響く、石畳を駆ける。その後に続く、不気味な重々しい足音。暗闇を暗視ゴーグルで見つめる。
そこに居たのは女性と――
「三メートル越えの巨躯を確認!」
「こっちでも確認してる……ちっ、
「新武装の試し時ですね!」
「奴の張るテクスチャには注意しろよ」
「世界を侵食する呪い、でしたっけ」
「内容なんてどうでもいい。ただ注意しとけ」
サブマシンガンにカスタムを加え長距離狙撃銃に組み替える。これぞマルチウェポン。特攻課開発部門政策の新兵装だ。
「心臓さえ撃ち抜きゃ死ぬだろ……っと」
サイレンサーで無音に近い状態で発射された特攻弾丸が、巨躯にヒットする。しかし――
『来たか――』
「ちぃ! 開発部門の奴ら手抜きやがって!」
「先輩マズくないですか!?」
「分かってる! お前だけでも逃げろ!」
「先輩!? 何言ってるんですか! 好きな人置いて逃げられるわけないです!」
「一言余計なんだよお前……!」
巨躯がターゲットをこちらへ変える。
『待ちかねたぞ
「バトルジャンキー系かよ……! そういうのはお断りだっての……!」
「先輩、援護お願いします」
「おい、ちょっと待て――」
高周波ブレードを構えて、セシルは駆ける。その巨躯を斬り付ける。しかし。
『
「下がれ! サブマシンガンに切り替えた! 全弾発射するから全力でかわせ!!」
「了解!」
しかし、その
『我が呪い、受け入れよ』
「ああっ!?」
「セシルーッ!」
「見ないで……見ないでください……」
『半獣か……ハズレとは悲しい事だ……ここで終わらせてやろう……』
セシルと
「――特攻課特製グレネードだ。喰らいやがれ化け物」
爆発。連鎖して巨躯を吹き飛ばす。その間にセシルを抱えて逃げるブレーズ。巨躯は追っては来なかった。
●
特攻課特設病院の病室。猫耳尻尾、手足に長い爪が生え、もふもふ、もとい毛深くなったセシルの姿があった。猫ひげも忘れずに。
「見ないでくださいぃぃ……」
「あー……なんだ、俺は可愛いと思うよ」
「慰めになってません。私、ルーガルーになっちゃったんですよ?」
「なってねーんじゃね? あいつもハズレとか言ってたし」
「先輩、怒りますよ」
「怒れるくらい元気なんだな」
そこに。
『オラァ!』
看護師『スライドドアを蹴るのはお止めください!?』
「ダミアン課長だ」
「みんなして……」
がらがらとスライドドアを開くダミアン。どこかしょんぼりしている。
「いや無念だったな。まさかセシルちゃんが呪われるとは」
「これ、治るんです?」
「今の所、対処療法しかない。根本的治療は無理だ」
「対処療法って?」
「二人共、ちょっと付いて来い」
そうしてダミアンに連れられ、二人はとある人物たちに出会う事になる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます