第2話 ルーガルー特攻課


 市内の部署だけでも十か所はあった。その中からルーガルーを推理しろなど土台無理な話だ。しかし命じられたのならやらねばならない。

 ブレーズとセシルの二人は各部署を巡って行く。


「あー、例の人外獣理ラ・ベートの件か。うちも手を焼いていてね」

「開発部門の内部犯行だろ? 内は管轄外だろうさ」

「いや、そこをなんとかお話だけでも……」

「あー……暇だ……」

「先輩!」


 やる気のないブレーズ、セシルは頬を膨らませて怒る。

 ブレーズは後頭部を掻きながら。


「あー、ちょっとすいません、最近の行動について聴かせてもらっても? 特に犯行が行われた夜についてです」

「俺を疑ってんのか?」


 署員の一人が反論する。しかし、ブレーズは意にも介さず。


「いいから、聞かせろ」

「……ちっ、分かったよ。その日は家族でパーティしてた。家族が証人だ。何か文句でも?」

「いえ結構、では他にあなたのまわりで怪しい人物は?」

「まだ続くのかよ……」

「いいから、答えて」


 睨みを利かすブレーズ、同業相手にも容赦がない。セシルは羨望の眼差しを向けていた。


「先輩かっこいいです!」

「そういうのいいから」

「他に怪しい奴……それこそ開発部門のクロヴィスが夜な夜な出歩いてるって噂が――」

「どうも、ご協力感謝します」

「は? もうおわ――って行っちまいやがった。なんなんだいったい」


 その部署を後にするブレーズとセシル。後輩はおどおどとした様子で、先輩を問いただす。


「あの、今のでいいんですか? もっと情報を集めないと……」

「いいんだよ、おおよその検討は付いてる」

「えっ、すごいです先輩! ただのおちゃらけじゃなかったんですね!」

「君さぁ。俺の戦闘身近で見てるよね?」


 そんなこんなで、開発部門の前までたどり着く。対ルーガルー装備を作る専門部署だ。ガラスの押戸を開ける。清潔な空間。黒スーツの二人が浮いて見える白衣だらけの世界。


「クロヴィスはいるか?」

「おい誰だお前ら、許可なく立ち入る――」

「その名札、お前がクロヴィスだな?」

「ひぃ!?」


 制止した男を振り切り、開発部門の部屋の奥に居た男を見つけ迫るブレーズ。慌ててセシルも追いかける。


「お前は、ルーガルーか?」

「ぼ、僕は、に、人間です」

「じゃあ十の質問に答えろ」

「……」


 十の質問。それはルーガルーを炙り出すために作られた特攻課マニュアル。一,肉は好きですか? 二,夜に行動しますか? 三,狭い場所が好きですか? 四、犯罪歴は? 五、家族構成は? 六、今何歳? 七、生まれた場所は? 八、人を食べた事は? 九、その姿は本物? 十、汝は人狼なりや? この十問。答えられなければ、すなわち、ルーガルー。という事になる。

 そして、クロヴィスはそれに答えようともしなかった。


「ビンゴだ後輩。銃撃用意」

「ここ室内ですよ先輩!?」

「グルウァ!!」


 獣の本性を現したクロヴィス、いや、ルーガルーは、二人に襲いかかる。開発部門はパニックになる。しかしブレーズは気にしない。ホルスターから特攻グロッグを抜き出す。


「俺は人外獣理ラ・ベートだ! そんなもの効くか!」

「その割にはサイズが小さいな?」

「先輩、それって」

「こいつは人外獣理ラ・ベートじゃない。雑魚だ」

「俺を雑魚扱いするなぁ!!」


 迫るルーガルー、その速さ、まさしく疾風。しかし。


「遅い」


 ステップだけで突撃を躱すブレーズ、ルーガルーは壁に激突する。しかし。


「先輩! 身体が!」

「ああ、また特攻チョッキがおじゃんになっちまったか」


 その時、その場に居合わせた開発部門の一員が小声で言った。


「支給品壊しのブレーズ……!」

「嫌な通り名だなおい」

「ブレーズ……!? 百匹狩りのブレーズ!?」


 壁から抜け出したルーガルーが、の姿勢に入る。


「おっと、足元がお留守だよっと」


 銃撃を放つ。ルーガルーの両膝を射抜く。悲鳴が上がる。血飛沫も上がる。ルーガルーが転げまわる。そこに。


「はいトドメ」


 一撃、心臓を撃ち抜かれたルーガルーは、ぱったりと動かなくなった。


「はぁ……だるい……」

「さすが先輩!」


 戦果を挙げて、ルーガルー特攻課第二支部へと帰る二人。現場は開発部門の連中に任せた。ルーガルーの解剖なら喜々としてやる奴らだ。


「任務完了、辞めさせてもらいたいのですが」

「却下だボーイ。よくやった。これで一先ず特攻兵装の開発は進むだろう」

「先輩! すごかったですよ!」


 子犬が尻尾を振るように浮かれるセシル、鬱陶しそうにブレーズはしっしっと手で払いながら。

 

「でも人外獣理ラ・ベートじゃなかったっすよ?」

「そういえば……なんか弱っちかったです」

「ハハハッ! そらな、人外獣理が出たなんてルーガルーが吐いた嘘だからな!」

「は?」

「ほら、アイツら嘘吐く生き物だし」

「んなテキトーな……」


 ブレーズは呆れた。セシルも苦笑いをする。そして、ダミアンは驚くべき提案をする。


「百一匹狩り記念だ二人共。デートに行って来い」

「は?」

「え? いいんですか!? やたっ」


 こうして唐突に先輩後輩デートが決まったのだった。

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