呪われた獣に弾丸を
亜未田久志
第1話 不良刑事とかわいい後輩
デスクの上に山積みになった書類に足をかけて寝こける。男が一人。そこは小汚いオフィスだった。そこの扉が開かれる。
「ブレーズせんぱーい、言われたもの買ってきまし……って寝てるし! 起ーきーてー」
「んあ? んだよセシルか。今、いいとこだったのに」
「先輩の良い夢って……」
「そら美女とイチャイチャよ」
「はぁ……わたしというものがありながら」
「年下趣味ねーんだわ」
「カチーン!」
書類の束で殴られるブレーズ。セシルは書類をトントンと整理しながら。
「ルーガルー事件、増えてますよ。情報規制も限界です」
「もともと特攻課の領分じゃねーって」
「ですけど……」
ブレーズは後頭部を掻く。セシルは書類を整理する。少しの沈黙。後に。
「
「本当だとしたら俺らの手には負えないな?」
「先輩って軽いですよね」
「俺はいたって真面目だよん」
「そういうとこですよ……」
「オラァ!」
特攻課第二支部の扉が蹴破られる。
「ダミアン課長、扉は普通に開けてくださいってばぁ……」
「相変わらず、元気そうですなぁ」
「ああ!? おめぇらだけかよ?」
ダミアンと呼ばれた大柄の女性は辺りを見回す。他に人間が居ないことを確認すると、二人に告げた。
「良いニュースと悪いニュースがある」
「聞きたくねー」
「……えっと」
ブレーズは耳を塞ぐジェスチャー。セシルは書類を抱え汗を浮かべている。ダミアンは気にした様子も無しに。
「どっちから聞きたい?」
「無視すんなや」
「じゃ、じゃあ、良いニュースから」
「いいねぇ、セシルちゃん。先にショートケーキのいちごを食べるタイプだな?」
「いえ! 最後まで取っとくタイプです!」
何故かそこだけ返事がいいセシル。本当になんでだ。
「まあいい。良いニュースは
「はいバッドニュース」
「えっとじゃあ悪いニュースは……?」
「対
沈黙が舞い降りる。無理もない。普通のルーガルーの相手でさえ苦労するのに、相手は王のような存在だ。それに対する装備が間に合わないというのは悲報でしかない。
「じゃあ俺、退職届け書くんで……」
「破り捨てる」
「パワハラだー!」
どこまで本気か分からないやり取りにセシルは苦笑する。
「
「この市内」
「うわ最悪だよ」
「せーんーぱーいー?」
「はい、ごめんなさい」
コホンとダミアンは咳払いをして、話を続ける。ホワイトボードを引き寄せ、マグネットで市内の地図を貼り付ける。
「市内に潜伏中と思わしきルーガルー。
「それが
「体躯が三メートルほどあったそうだ」
「……げぇ、キングクラスだ」
「厄介ですね。特攻弾が通るか怪しいです」
「そう、肝心の悪いニュースの真相なんだがな?」
言葉を一区切り。ダミアンが告げる。
「狙われたのは特攻課の開発部門の研究員ばかりだって点だ」
「……は?」
「それって……!」
「ああ、人狼は内部に居る」
衝撃の一言だった。今まで特攻課内にルーガルーが現れた事は無い。人に化ける獣だが、わざわざ敵の本拠地に潜り込もうとする程の阿呆はいなかったという事。全員がそう思っていた。
「容疑者は?」
「特攻課だけで百人はいるんだぞ?」
「ろ、ローラーすれば?」
「おいおいセシルちゃん、皆殺し作戦か? それも面白そうだがな、少ない犠牲で住民の命を救おうってやつだ」
「冗談じゃねぇっす。セシルも安易な事言うな」
「……先輩に叱られるのって複雑です。いいからこの始末書の山片づけてください!」
抱えていた書類をブレーズに押し付けるセシル。それを見てゲラゲラ笑うダミアン。
「アハハハハ! それ全部、始末書かよ! なにやらかしたんだブレーズ!」
「えっと、特攻弾全弾撃ち切ったのと、女のルーガルーを口説いたのと、特攻チョッキを三着ダメにしたのと――」
「クッ、ハハハハハ!! もういいもういい! 最高だわお前!」
「先輩、ルーガルーを口説いたの初耳なんですけど」
「あのセシルさん?」
ゴゴゴゴゴゴゴという音が聞こえてきそうな嫉妬のオーラを纏ったセシルがブレーズに関節技をキメていた。それを見てさらにゲラゲラ笑うダミアン。
「んじゃ、お前ら、さっそくパトロール」
「は? 内部犯なんでしょ?」
「そ、だから他部署にレッツゴー」
「嘘だろおい……」
否応無しに二人は、ルーガルー特攻課巡りをさせられるハメになったのだった。
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