第5話 ボツになりそうなプロローグ①
みなさん、こんばんわ。
本日も、ご健筆の事とご拝察申し上げます。
ワタシは現在、「歴史・伝奇」ジャンルの執筆に挑戦中です。
作品タイトルは、
「七つの星は空天に飛び去りて――花街の高級遊女が、一休さんに一目惚れ!?」
今回の表題の前フリとして、この作品のプロローグ(仮)を公開します。
ご教示などいただければ幸いです。
⭐⭐⭐⭐⭐
――1461年1月30日(新暦)。
雪がちらつく寒い日のことだった。
その老僧は、ふらりとやって来て本願寺の門前に立った。白い息を吐いて、寺の門を見上げている。
寺の門前を掃き清めていた小僧は、彼の姿を見て手を止めた。その奇妙な姿を見て、一歩後退りした。
年齢は六十半ばを過ぎたくらいであろうか。
極めつけは、片手で担ぐように持っている朱塗りの長剣。およそ僧侶に似つかわしくないモノである。
その奇妙な老僧に小僧は、おそるおそる、
「何か御用ですか?」
と尋ねた。
すると老僧は、
「大徳寺の一休じゃ。蓮如はおるか?」
と白い歯を見せて、にかっと笑う。
この老僧こそ臨済宗大徳寺派の僧侶、一休宗純そのひとである。
「れ、蓮如さまは、いま、外に出ておられます」
「では、
そう言うと、一休は阿弥陀堂の方へと歩き出した。その後を寺の小僧が追う。
阿弥陀堂は、
「ふふふ。まさに極楽浄土といったところか」
阿弥陀堂に入った一休は、香炉から立ち昇る抹香の香りが漂う堂内をぐるりと周りを見回して微笑んだ。
正面に大きな
一休は朱塗りの長剣を脇に置いてどっかりと座り、しばらく正面の阿弥陀如来像を見上げていた。
ところが、だんだんと眠くなってきた。
彼は立ち上がって、
「よいしょっ!」
そして阿弥陀如来像を寝かせるように床に置き、それを枕に居眠りを始めた。
夕暮れ時になって、蓮如が本願寺に戻って来た。
整った顔立ちに涼やかな目をした男だ。黒に染め上げた衣を身に纏い、美しい白の袈裟をかけている。綺麗に頭髪を剃り、どこぞの僧侶のように無精髯も生やしていない。
蓮如の姿をみた小僧が、彼に駆け寄る。
「大徳寺の一休禅師が、阿弥陀堂でお待ちです」
蓮如は小僧に笑みを向けると、すぐに阿弥陀堂の方へと向かった。
阿弥陀堂に入った蓮如と小僧は、一瞬、処理落ちした。
信じがたい光景が、そこにあった。
阿弥陀如来像を枕に居眠りをする一休の姿。
あまりの光景に、小僧は蓮如と一休を交互に見た。
「まったく、この人は他宗の寺で何をやっているのか……」
蓮如は苦笑して、一休に近づいて行く。そして一休の側に立つと、
「起きなさい、一休殿!」
一休を見下ろしながらそう言った。
「むにゃ?」
仰向けになったまま薄く目を開けて、一休は蓮如を見上げている。
「『むにゃ?』ではありません。私の商売道具を枕にするとは何事ですか!」
蓮如はそう言って、笑みを浮かべた。
「ふっ、阿弥陀如来さまを『商売道具』だというのか。こりゃ可笑しい。はははははは」
そんなふたりのやり取りを、小僧はポカンとした様子で眺めていた。
蓮如はハッとして、ゆっくりと振り返る。
そして小僧の方にニコリと笑顔を向け、「これ、
唖然としていた小僧も我に返り「ただいま」と、お辞儀をして立ち去る。
その姿を確認した蓮如は、横になる一休の側に座った。すると一休は、おもむろに起き上がった。
「先日は、
「いやいや、礼には及ばんよ」
手をひらひらさせる一休に対し、蓮如は彼を無言で睨んでいる。
瞬きをした一休が、
「何じゃ?」
と尋ねると、蓮如は、
「結構な歌まで賜り恐縮です」
と笑みを深めた。
――えりまきの あったかそうな黒坊主 こやつが法は 天下一なり
称賛しているのか、ディスっているのか微妙な句だ。この歌を書き記した一葉の紙を、彼はこともあろうに寺の門に貼り付けて帰ったのである。
「いやいや、礼には及ば……」
目を閉じてわなわなと震える蓮如を見て、一休は少し後退りした。
「まったく、貴方という人は……」
「そんな顔をするでない。酒が不味くなろうが」
「私に直接手渡せばよいものを。よりによって、寺の門に貼付けていくことはないでしょうに」
一休の
事実、一休が詠んだ歌を見た参列者たちは、みな寺の門の前に群がり騒ぎ出した。蓮如たちは、その対応に追われることになったのである。
てへぺろする一休の様子を見た蓮如は、はぁと大きくため息を吐いた。
すると小僧が
酒の入った大徳利がひとつ、そして赤茶色をした素焼の盃と瓜の漬物を盛り付けた皿がふたりの前に差し出された。
「ご苦労様。お前は下がっていいですよ」
蓮如がそう言うと、小僧はお辞儀をして阿弥陀堂を後にした。
「さ、どうぞ」
蓮如が徳利をもって、盃を一休に差し出す。
「おお、すまんの」
蓮如は、一休が手に取った盃に酒を注いだ。そして今度は一休が徳利を持ち、蓮如の手にある盃に酒を注ぐ。
「ときにお主、また随分と
「……」
蓮如が
もちろん蓮如も黙ってはいない。延暦寺への上納金の支払を拒絶するなどして対抗したという。
この頃、寛正の飢饉で京都に流れて来る流民の救済活動にあたりつつ、蓮如と弟子たちは本願寺の独立を目論んでいた。
「お主さえよければ、力を貸すが?」
風体はアレだが、一休宗純は後小松天皇のご落胤というウワサまである有名人だ。彼は、多くの文化人・豪商と交流があった。
さらに、彼は臨済宗の僧侶である。臨済宗は室町幕府の庇護を受けているから、彼がその気になれば幕府や朝廷を動かせるかもしれない。
「いえ。一休殿を煩わせる訳にはまいりません」
やれやれ、といった様子で目を閉じる一休。
負けん気の強いこの男が、一休からの申し出とはいえ首を縦に振る筈もない。
ふたりは無言のまま、じっと手のなかの盃を見つめている。
時折、吹く風が板戸をガタガタと揺らす。風がやむと、ふたりの息づかいが、はっきりと聞こえた。
そんな沈黙を破ったのは、一休である。彼は顔を上げて、俯き加減の蓮如を見て言った。
「お主に頼みたいことがあるんじゃ」
「何でしょう?」
「親鸞聖人の
「は?」
一休は臨済宗の僧侶だ。それなのに、他宗の僧侶の
「な? ええじゃろ。友達じゃろ?
どこか気の進まない様子の蓮如を見た一休は、蓮如の袈裟の裾を掴んで縋る。親鸞聖人の御影を強請る臨済宗の僧侶。ちょっと引き気味の蓮如。
「わ、わかりました。差し上げましょう。ですが、条件があります」
「ぬ?」
「ひとつ、お話をしてください」
蓮如は一休のする話を、とりわけ気に入っていた。どこかユーモラスでありながら、含蓄のある話ばかりだからだ。
「話し、か?」
「はい。とっておきのヤツをお願いします」
蓮如は目をキラキラさせながら、そう答えた。
「とっておきのヤツか……」
「ええ。他ではしたことがない話を聞かせてください」
外は日も沈んで、だいぶ暗くなっている。
阿弥陀堂内を照らす蝋燭の明かりが、ゆらゆらと揺れていた。そのたびに二人の影も揺らめいた。
一休は、手の中にある盃をぼっーと眺めている。やがて彼は顔を上げて、蓮如の方を見て言った。
「すこし長くなるが、良いか?」
そう言う一休の顔を見た蓮如は瞬きした。それまで蓮如が見たことのない一休の表情が、そこにあった。どういうワケか知らないが、一休がこんなに寂しげな笑顔を見せるのは珍しい。
「ええ。幾晩でも、お付き合いいたしますよ」
蓮如は微笑んでそう答えた。
どうやら今夜は寝られそうにない。けれども、この人と過ごす夜は悪くない。今まで見た事もない表情をするほどだ。今宵、語られる話はきっと驚きに満ちていることだろう。
蓮如の胸は高鳴った。
蓮如が盃を仰いで、一休に視線を向けた。おもむろに一休が口を開く。
「あれは、わしが
手の中の盃を見つめながら、一休はかつて
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