気の向くまま⭐思いつき【短編集】

わら けんたろう

第1話 パンダの繁殖期

 私がフォローしている水ぎわ様のイベントに乱入してみました。


『書けないパンダに値打ちはある!! 『疾走! 背脂パンダ』イベントにご参加ください!!』

 https://kakuyomu.jp/works/16816452221290903720/episodes/16816700427793300354


 ―――――


 パンダは走っていた。白と黒の毛並みが風に流れてゆく。

 息が上がる。目の前がゆがむ。しかし止まれない。なぜなら背後から―――


 🐼🐼🐼🐼🐼


 ここは、とある山中の竹林。

 五月晴れの陽気のなか、パンダはカリカリと竹を齧っていた。

 いや、そこは笹だろっ! というツッコミはひとまずおいておく。じつは、どちらも食べることはできるらしいが、ここは竹林である。


「メェェェ~❤」


 どこからともなく聞こえてくる声。これは、ヒツジの鳴き声ではない。


 繁殖期のパンダの鳴き声である。


 とりあえず、今はお腹がすいている。色気より食い気である。まずは竹をカリカリ齧る。


 ザッザッ、ザザザザザザ、ガッシャン!

 

 およそ竹林に似つかわしくない騒音が、パンダの耳に届いた。

 なにごとかと、音のする方に視線を向ける。

 

「は?」


 その目に、飛び込んできたのは……、


 マウンテンバイクに跨り、キィコキィコとペダルをこぐ雌パンダの姿。


「メェェェェ~❤」


 パンダは戦慄した。

 確かに今は、恋の季節。


 とはいえ、こんな異常な求愛行動を竹林のなかで経験したコトはない。

 というか、雌パンダの方から求愛されるコトってあるのだろうか!?


「ぎゃああああ!」


 もはや色気などどこかに吹っ飛んで、パンダは反射的に逃げ出した。

 それを見た雌パンダ。キコキコキコとペダルを漕ぐペースを速めて追ってくる。


 パンダは全力で逃げる。走行時は時速32㎞といわれる。


 白と黒の毛並みをなびかせて、樹々の間をすり抜け、倒木を飛び越え、岩を飛び越えて、パンダは無我夢中で走った。


 キコキコキコキコキコ


 けれども、相手はマウンテンバイク。なんなく飛び越えて向かってくる。


 ハァ、ハァ……。


 息が上がる。苦しい。目の前がゆがむ。

 しかし、止まれない。止まるワケにはいかない……のか?


 あれ? 


 そう。いまは恋の季節。

 通常は、こっちが追い駆ける方……のハズだ。


 こんなチャンスは滅多にない。

 お相手を探すのだって大変なのだ。


 パンダは、くるりとふり向いた。


 キコキコキコキコキコキコキコキコ……。


「メェェェェ~❤」


 繁殖期特有の鳴き声を上げて、全速力でマウンテンバイクを漕ぎながらこちらに向かってくる雌パンダ。


「だあーっ! やっぱ、ムリっす」


 パンダには、どうしても受け入れられない光景だった。

 しかし、その逡巡が致命的(?)となる。


 ズザザザザザザーッ。


 雌パンダはマウンテンバイクの後輪を横に滑らせて、パンダの前に立ち塞がった。

 そして彼女は、びょーんとパンダに飛びかかる。


 メェェェェェ❤❤❤❤



 パンダにとって、一生忘れられない「恋の季節」となった。

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