第77話 己が化け物であるという事を

 あれから40分くらい。煮込んでまるごと野菜の肉鍋は完成した。


 私とヴァルトさんは、ヴァルトさんお手製『何でも合うぜソース(私命名)』で、食べることにし、まずは弟たちに食べてもらうことにした。


 まるごとルシューを四等分に切って、二つをオーちゃんに。四分の一をさらに半分にしてお皿に盛ると、カー先生の前に置いた。


「二人とも、召し上がれ」


「バウ! ガウワウ!」


 オーちゃんは元の大きさに戻り、まるごとルシューを丸飲みした。


「オーちゃんっ、ちゃんと噛まないと喉にっ!」


「バッ!? ヴー!」


 案の定、喉を詰まらせたみたいだ。


「ほらー! オーちゃんっお座り! そして下向いて!」


 オーちゃんを座らせると。


「ごめんねっ、ちょっと痛いよ!?」


 加減をしている場合じゃないので、思いっきり背中をバシバシ叩いた。


「ヴゥー……」


「咳コンコンってできる!? 何とか吐き出せない!?」


「ガウッ、ケフッ」


 オーちゃんの口から、ルシューの大きな塊が吐き出された。


「よかったー」


「バウー」


「オーちゃん」


「ワウ?」


「メッ!」


 両人差し指で二つの頭を軽く撫でた。


「ウー……」


 オーちゃんとたてがみや尾の蛇さんは、しょんぼりと頭を下げて落ち込んだ。


「よく噛まないとね、さっきみたいに喉に詰まるし、消化にも良くないんだよ? わかった?」


「ワウー……。バウワッ、ワウワウ?」


「僕の、ご飯は? だそうです」


 通訳カー先生、パート……無限!


「今、吐き出したでしょー? だからーおしまい」


「バウー……」

 

「ははっ。わかったわかった。俺の分をやるから」


 ヴァルトさんは四分の一のルシューを、お皿に盛ろうとした。


「よかったねー、オーちゃん」


「ワウッ!」


「いいなー、オレにも分けてよー」


「え……?」


 天井から知らない声。


 見上げると、黒い沼のような所から、男の人が不気味に笑って私たちを見下ろしていた。


 私は突然の事に、体が固まり、ヴァルトさんは。


螺旋光スピラクス!」


 全方向から螺旋状の光を走らせ、男の人に向け。


「ヴアァー!」


 オーちゃんは炎を吐き。


勲章菊アーミナの兜クリザンテ!」


 カー先生はオレンジに光る大きな菊の魔法で、頭上を守ってくれた。


 でも。


「ハハハ! 甘い甘い! 宵烈火ガトリオゴルム!」


 二人の攻撃と、カー先生の守りは、男の人が放った黒い炎の魔法で一気に押され気味になった。


「ぐっ……」


 ヴァルトさんは咄嗟に螺旋状の光を集めて防いだ。だから、炎は当たっていない。なのにすごい汗の量だ。


「そらそらそらー!」


 男の人の炎は、どんどん強く大きくなり、とうとう。


「くっ……」


「バウッ!」


「うわぁ!」


 ヴァルトさんの光とオーちゃんの炎を打ち消し、カー先生のお花を散らせた。


「みんな大丈夫!?」


 駆け寄ると。


「ワウー……」


「すみません……」


 オーちゃんとカー先生は謝った。


「ううん! 大丈夫! みんなのおかげで私は無傷だもん! でも……」


「はぁ……、はぁ……」


 ヴァルトさんの様子がおかしい。汗のかき方が、疲れとか暑さによるものじゃない。


「やーっと見つけたぞー。オレの家族の仇、エーヴェルヴァルトー。いや、人喰い化け物と言った方がいいか」


「……どういうことですか」


 カー先生を抱き締め、オーちゃんに近づきながら尋ねた。


「あっれー? そこの化け物とずっと一緒にいるのに知らないのー? こいつのババアなー、人喰いだったんだぜー?」


「え……」


「……違う」


 ヴァルトさんが小さな声で言った。


「人喰いのババア、その孫で化け物だから、人喰い化け物。うわーんっ、オレ怖いよー」


「違う!」


 ヴァルトさんの声が響き渡った。


「ばあちゃんは……、人の肉体を研究していた……。やまいを、治せるように……」


「そのために、人の皮膚を喰ったんだろー? 人喰いじゃんっ」


「違う! あれは……、皮膚組織を、研究していただけだ。食べてなどいない……。それに、あれは……、貴様が全て仕組んだ事だろう」


「んー?」


「わざと、ばあちゃんに、提供した……」


「んー……。ちゃんと認めないとダメだろー? 現実と向き合わないとー。祖母は人喰い、自分は化け物だってー。教わらなかったー? あ、お前は両親に捨てられたんだったな。ごめんごめんっ」


 男の人は、わざとらしく手を合わせた。


 何なんだこの人は。

 何で苦しめるんだ、ヴァルトさんを。

 何でベラータおばあちゃんさんが、人喰いなんて言われなきゃならないんだ。


 違うって言ってるじゃん。

 認めてない、現実と向き合ってない。そうじゃないよ。

 ヴァルトさんは口は悪いけど、嘘は言わないよ。


 今までだって、ちゃんと認めて向き合ってきたよ。生まれてすぐ、第一位エアストということに。


 だから。


「はちゃめちゃなのはあなただー!」


 左手にカー先生を抱っこしなおし、指差した。


「は?」


「家族の仇だか、何だか知らないですけどねー! ヴァルトさんの何がわかるっていうんですか! 何を見てきたっていうんですか!」


「じゃあお前は、その化け物の全てを知ってるのか?」


「いいえ!」


「はっ。バカなんじゃねぇの?」


「バカですとも! そして! 私にとっての全ては! みんなで! 二人で過ごす今なんです! だからっ、今までのヴァルトさんを知らなくてもいいんです!」


「あー……。オレお前嫌いだわ」


「そうですか! ありがとうございます!」


「そのうるさい程の明るさ。吐きそうだし尻からも何か出そうだわ。化け物のくせに光と生きるなんて間違ってんじゃね? だから」


 男の人は右手から紫色の炎を出した。


「思い出させてやるよ! お前が人喰い魔女の孫だということを!」


−−−−−−


 あとがき。


 ゲスの極み三号現る(笑)


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