ルームランプ

伴美砂都

ルームランプ

 ここの海はきらいだった。どんよりとしていて波が高い。さつばつとした海だと思う。けれどこの土地にはこの海しかないから仕方がない。

 辺りは暗い。駐車場は夏の海水浴客のためだろう。今はだれもいない。ヘッドライトを消せば、切れそうな街灯だけが寄る辺なくゆれている。ここまで来たけれど、浜辺までは行かない。窓を少し開けると小さく、小さく波の音が聴こえる。


 助手席の鞄から、オレンジ色の鳥の絵のついたポストカードを取り出す。陶子から届いた手紙だ。

 室内灯のスイッチに手を伸ばした。スマートフォンの画面なら暗闇でも見えるけれど、カードの裏面に書かれた文字は明かりをつけなければ見えない。ときどきしか使わないから、スイッチをどちらへ傾けたらいいのか少しだけ迷う。そっと右を押すと、うっすらとした光が弱々しく手もとを照らした。


「いつかまた笑って会えるといいよね」


 ね、のあとに句点とも読点ともつかない小さな点がある。陶子の字は弱々しくけれど笑っているようだった。小さな明かりに照らされたそれをずいぶん長い間眺めて、目を閉じた。きっと、でも、いつか、また会える。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ルームランプ 伴美砂都 @misatovan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る