第13話

 あの後、夕食から入浴まで済ませた徹也は、再び自分の部屋に戻り治伽が来るのを待っている。だが、もう日付が変わろうとしているにも関わらず、まだ治伽は来ていない。


 徹也は治伽の遅さに疑問を持ち、このまま来ないのではないかと思ってしまった。そして徹也は、ベッドに倒れ込んだ。


 しかし、徹也がそうした瞬間、コンコンと扉をノックする音が徹也に聞こえた。徹也はすぐにベッドから立ち上がり、扉の方に行ってその扉を開ける。


「……遅かったな。望月」


 そこには、徹也の予想通り治伽が一冊の本を持って立っていた。治伽は本を持っている手とは逆の手で、徹也の口を塞いだ。そして徹也に近づき、徹也にしか聞こえない声で話しかけた。


「……あまり、大きな声を出さないで。早く部屋に入れてほしいわ」


 治伽のその行為に、徹也は少しドキリとしつつも無言で治伽を部屋に招き入れた。徹也と治伽が二人とも部屋に入り扉が閉まってから、治伽は徹也の口を塞いでいた手を離した。


「……なんでここまでするんだよ。別にここまでしなくても……」


「念には念を、よ。それより、持ってきたわよ」


 治伽は持っていた本を、ベッドの上に置いた。机では、二人で読むのには手狭だったからだ。


「……ああ。じゃあ、早速読んでいくか」


「ええ」


 徹也と治伽は頷き合い、ベッドに座って本を開く。その本の目次には、タレン王国の歴代の王の名前が並んでいた。


「……初代王からでいいよな?」


「そうね。それでいいと思うわ」


 徹也はページをめくり、初代王のページを開く。そこには、一からこの王国を作り、人々を纏め上げた英雄といった内容が書かれていた。だが、徹也が目を向けたのは、その内容ではなかった。


「……!おい。望月。これ……」


「え?っ!これって……」


 徹也が指さした場所に書いてあったのは、このような内容だった。


【初代王、モナット一世はこの時、光を放ち争いを収めたと伝えられている】


「これ、光魔法のことじゃないか?」


「……可能性は、零ではないわね。でも、この記述じゃどんな魔法なのか分からない……」


「そうだな……。もう少し、詳細に書いておいてほしかったが……。目次を見る限りだと三百年以上の時が経っているんだ。仕方ない」


「……そうね。読み進めましょう。まだ、何かあるかもしれないから」


「ああ」


 徹也と治伽は初代王の記述を読み終え、二代目、三代目と進んでいく。しかし、治伽の才能と魔法属性に役立つ記述は載っていなかった。


「……ないな」


「ええ。……もしかしたらだけど、王の才能を持っていたのが初代王だけだったのかもしれないわね」


「できればだが、そうであってほしくはないな……」


 徹也はそう言って、また本を読み進めていく。だが、四代目にも目ぼしい情報はなかった。そして徹也と治伽は、五代目のところまで来た。


 すると徹也が、五代目の表記のところである文章を発見した。


【この時代に、人の才能を写す水晶玉が発見され、初代王は王の才能を持っていたのだろうと伝えられた】


「水晶玉……。こんな前の時代からあったのか」


「だから、この王から才能が書かれているのね」


 だが、五代目の才能は王ではなく、参考にならなかった。そして、徹也と治伽は五代目のところを過ぎ、六代目のところに突入する。


 それだけ読んでも、王の才能を持った王は初代王以外おらず、欲しい情報はまるで得られなかった。


 それからも、徹也と治伽は本を読み進め続けたが、九代目に至るまで目ぼしい情報は表れない。九代目のところを読み終わったところで、徹也はため息を吐いた。


「……全然ないな。手がかり」


「……そうね。もう、時間も遅いけど……」


「……そういえば、いつ部屋に戻るんだ?」


「区切りがつけば、かしら……」


(え?それ区切りがつかなかったらどうするんだ?ま、まさか泊まるとか……)


 徹也はそこまで考えたが、すぐにその考えを否定する。治伽がここに泊まるなんてことはないに決まっている。徹也はそう考え直し、次のページにいく。本はここから十代目である。


 徹也はそのページを開いた瞬間、目を見開いた。そこに、待ち望んだ文字があったからだ。


「望月!これ!」


「きゃっ!お、驚いたわ……。な、なに?才無佐君」


「ここを見てくれ!十代目の才能のところを!」


「さ、才能のところ……?……っ!?こ、これって……!?」


 徹也と治伽の目に映っているのは、二人が待ち望んでいた【王】という文字であった。

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