第8話

 マディーについて行った徹也達は、騎士団の訓練場まで来ていた。そして、その前にはマディーだけではなく、騎士団の者も加わっている。


「皆、よく来てくれた。私はこの騎士団の団長を任されている、ヴァン・ルーカスだ。今日はまだ訓練をしない。まず、確かめなければいけないことがあるからな」


「確かめなければいけないこと、ですか……?」


「うむ。それは、各々の魔力の色を見ることだ。魔法には属性があり、それは魔力の色で判別できる。これで、適正属性が分かるというわけだ。だが、通常は魔力の色など見えない。よってこれを使う」


 そう言ってヴァンが取り出したのは、黒い板だった。右上の端に、指を置く場所が書いてある。この板が、他の騎士達によって徹也達に配られる。


「ここに魔力を流し込めば、色が浮かび上がるようになっている。早速やってみてくれ。その右上の端に触れるだけで色が変わっていくはずだ」


 ヴァンにそう言われ、まずは刀夜がそこに触れてみる。すると、板が薄い緑色に変色した。


 その様子を見ていたヴァンは、刀夜に向かって説明を始めた。


「……刀夜殿は、風属性に適正があるようだ」


「風、ですか……」


「うむ。魔法のことは、属性ごとに分けてからまた後で説明する。だから、属性が分かれば報告してくれ」


 教師である刀夜がしたことを皮切りに、徹也達も板に触れ始めた。すると、生徒達の板が次々と変色していった。……たった一人を除いて、だが。


(……変化なし、か……)


 そう。またしても徹也の板だけなんの変化もなく、真っ黒なままだったのだ。だが徹也は今回、驚きすらしなかった。


(まぁ……予想通り、かな。でも、これは対策のしようがないし、仕方ない。それよりも、望月と小早川はどうだ……?)


 徹也は自分よりも治伽と舞の方が不安だった。なぜなら、徹也は自分が適正無しなことを予測できていたが、治伽と舞の方は全く予想ができなかったからだ。


 徹也はチラリと治伽と舞の方を見る。見ると、治伽も舞も板の色が変わっていた。徹也はその事実にひどく安堵した。


 すると、他の生徒達が続々とヴァンに自らの適正属性を報告していく。そして、将希がその板を見せた時、ヴァンの目の色が変わった。将希の持つ板が、キラキラと金色に輝いていたからだ。


「君、これは……。そうか。君が、勇者の才能を持つ……」


「は、はい……」


「君は基本属性である火、水、風、雷、土、それら全ての適正を持っているようだ。文献で見たことがあるが、勇者の才能を持つ者に現れるらしい。属性ごとに分けるつもりだったが、君には私が教えよう」


「わ、分かりました」


「うむ。では君達も見せてくれ」


 ヴァンはそう言って洋助と忠克に板を要求した。洋助も忠克も素直にヴァンの言うことに従い、それぞれ板を渡した。その板は、それぞれ赤色と黄色だった。


「赤色に、黄色か。赤色の君は火属性、黄色の君は雷属性だな。火属性の君はこっち、雷属性の君はあっちに行ってくれ」


 ヴァンは洋助と忠克それぞれに別々の騎士を指差し、その騎士のところまで行くように促した。洋助と忠克はヴァンの言う通りに、その騎士の元へ向かった。


「……では、次は君達だな。見せてくれ」


 ヴァンはそう言って、徹也に治伽、それに舞に板を要求した。徹也は治伽と舞に、先にどうぞというジェスチャーをする。すると、治伽と舞はそれに従い、徹也よりも先にヴァンに板を見せた。


 ヴァンに渡った板のうち、治伽が渡した板は白色に、舞が渡した板は青色に、それぞれ変色していた。ただ、治伽の板は白色なだけでなく、光っているようにも見える。


 それを見て、ヴァンは一瞬苦い顔をしたが、すぐに表情を戻して治伽と舞に説明を始める。


「……白色の君は、光属性だな。この属性は非常に稀で、騎士団の中で持っている者がいないので、説明できそうにない。すまないな」


「……いえ。気にしていませんから」


 治伽はそうは言ったが、内心はひどく動揺していた。また、自分だけ人と違っていて、孤独感を感じたからだ。だが、そんな治伽の気持ちなど知る由もなく、ヴァンは続けて舞に話しかける。


「青色の君は水属性だ。だから、君はあの騎士のところまで行ってくれ」


 舞はヴァンにそう言われ、徹也と治伽の方をチラチラと見ながらではあるが、ヴァンが言った騎士の元まで行った。


「……さて、最後は君だな」


 ヴァンが徹也にそう話しかける。徹也は一切の躊躇をせず、ヴァンに真っ黒な板を渡した。それを受け取ったヴァンは目を見開いて驚いた表情を見せた。そしてヴァンは、その板をジロジロと観察し、何度かコンコンと板を叩いた。だが、何の変化もない板を見て、その板を徹也に返した。


「……すまない。信じていないわけではないんだが、もう一度触れてもらえるか?」


「……分かりました」


 徹也はヴァンの言う通りに、もう一度板に触れる。だが、先程と同じようにその板の色が変わることはなかった。ヴァンはそれを見て頭を抱えた。そしてヴァンは、一息吐いてから徹也に説明を始める。


「……変化しないということは、適正がないのか、魔力がないのかの二択だ。適正がないだけなら無属性魔法なら使えるが……、魔力がないのなら魔法を使うことすらもできない」


「そう、ですか……」


(できれば、無属性魔法ぐらいは使えたいが……。どうなんだろうな……)


 徹也が自分に魔力があるのかを知るすべは、今の所ない。それは早めに知りたいことだと、徹也は思った。


「……申し訳ないが、これは私達でも手に負えない」


「分かってます。書庫とかってありますか?そこで調べられれば……」


「……ああ。書庫はある。使用の許可を出そう。クリス。悪いが、彼の案内を頼む」


「分かりました」


 クリスと呼ばれた赤髪の女性騎士が、ヴァンにそう返事をした。そして、徹也を書庫へと案内しようとするが、それに待ったをかける者がいた。


「すいません。私も才無佐君について行ってもいいですか?」


 そう言ったのは、治伽であった。治伽もまた、徹也とは逆の意味であるが騎士団では手に負えないと判断されたのだ。


 それだけでなく、治伽は自分一人ではなかったという一種の安堵感もあった。それを失いたくなかったのである。


 一方、徹也としても治伽にはついて来て欲しいと思っていた。なぜなら、今の所治伽の才能、適正属性のどちらも分からないことだらけだからだ。この世界で生き残る以上、自分に何ができるのかは知っておいた方がいい。徹也はそう考えたのだ。


 ヴァンはそんな治伽の問に少し思案顔になってからではあるが、肯定の言葉を治伽に返した。


「……うむ。構わない。クリス、彼女のことも頼む」


「はい」


「では、他の者達も移動を開始してくれ。それぞれ担当の騎士について行くように」


 ヴァンのこの言葉を合図に、皆一斉に移動を始めた。徹也達もその例に漏れず、移動を開始する。


「……私達も書庫に向かいましょうか」


「はい。よろしくお願いします」


「……よろしくお願いします」


 クリスにそう促され、徹也と治伽はまずクリスに礼を言う。そしてその後、徹也と治伽はクリスに先導されながら書庫に向かって歩き出した。

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