第6話

 舞と治伽と共にあの場所から出た徹也は、二人と共に少し離れたところの人気のないところまで来ていた。徹也は、周りに人がいないことを入念に確認してから、舞と治伽に向かって話し始めた。


「……悪いな。どうしても、二人に伝えておきたいことがあって……」


「……え?わ、私達二人に?」


「ああ。ここで言っておかないと、後悔すると思ったから……」


「そ、それって……!?」


 舞は徹也の言葉を聞いて、顔を赤くした。徹也は舞のそんな顔を見て少し疑問に思ったが、あのことを伝えるのが先決だと思い言葉を続ける。


「俺は、力になると言ってくれたお前らに感謝してる。だから俺も、二人の力になりたい」


「う、うん……。それで……?」


 舞は先程よりも顔を赤くしてモジモジとしながら徹也からの言葉を待つ。これには流石の徹也でも怪訝に思い、続く言葉を言うことを躊躇ってしまった。そしてそれが、更に勘違いを加速させる。


 この状況を見ていた治伽は、もはや笑いを堪えきれていなかった。だが、面白いので治伽は止めようとしない。これも勘違いを加速させた要因である。


 徹也は少しの間黙っていたが、早く伝えなければ時間がなくなってしまうと考え、意を決して口を開く。


「……俺と、お前らの命が危ないかもしれない」


「うん……うん?」


「っ……!」


 徹也がそう言った瞬間、舞は思っていた言葉じゃないことへの戸惑い、そして治伽は笑いが一瞬で止み、真剣な表情に戻った。そんな二人を見ながら、徹也はそのまま言葉を続ける。


「俺達、戦闘系の才能を持っている訳じゃないのに騎士団に送られただろ?これは俺の予想であってほしいんだが、もしかしたら俺達を消すつもりかもしれないんだ」


「……それは、あなたの知識から導き出された結論?」


「……ああ。消されはしなくとも、何か濡れ衣を着せられて追放とかもあるな」


「……そう。分かったわ。それで、私達はどうしたらいいの?」


「……信じてくれるのか?」


 徹也は治伽にそう聞き返す。そんなわけがないと一蹴されるかもしれないと思っていた徹也にとって、すぐに信じてくれるとは思わなかったのである。


「……言ったでしょう?頼りにしてるって。私達の中だと、才無佐君が一番情報を持っているんだから。ねえ舞?」


「……えっ?あっ、うんうん!も、もちろん信じるよ!才無佐君の言うことだもん!」


 治伽に話を振られた舞はまだあの戸惑いが残っており、すぐに治伽の問に答えることができなかったが、徹也のことを信じると明言した。


「っ……!ありがとう、二人共」


「ええ。それで、私達はこれからどうするの?このままだと、命が……」


「っ……!」


 治伽の言葉で、舞の体が震えた。先程はあの戸惑いが残っていたせいで実感が薄かったが、治伽の今の言葉で実感したのだ。自分達の命が危ないかもしれないということを。


 治伽はそんな舞の肩に手を置き、舞のことを見る。すると、舞の震えが少しずつ収まっていった。


 徹也は舞の震えがきちんと収まってから、舞と治伽に話し始める。


「……ああ。だからまず、俺と小早川は役に立つと思わせなきゃならない」


「……私は違うの?」


「望月は【女王】だから、力を見せたら逆に危険だとされるかもしれないだろ?これは俺と小早川にも言えることだが、望月には後ろ盾が必要だ」


「後ろ盾……?そんなものどうやって……?」


 治伽がそう言って首を傾げると同時に、舞も治伽と同様の動きをする。治伽も舞も、徹也の言うことが心底分からなかったのだ。後ろ盾なんて、どう得るというのか。治伽も舞もそう思った。


 だが徹也は、治伽と舞のそのような反応は織り込み済みだった。そして、後ろ盾を得る手段もすでに考えていたのである。


「まず、今の王政に不信感とかを持っている大臣、つまり俺達の味方になってくれる大臣を見つけなければならない」


「でも、いるかどうかなんて分からないよ……?」


「いや、少なくとも一人はいるはずだ。王の元で一致団結なんて、そんなの理想論でしかない。それに、聞いている限りではこの国の歴史は長そうだ。なら、この王政に不信感を持っている人なんて沢山いる。特に国民だとな」


「……最悪、国民に匿ってもらうということね」


「正確に言うと、反乱軍とかだけどな」


 徹也のその言葉を聞いた治伽は頷いて、納得したようだった。だが、舞はまだ不安そうにしている。当たり前だろう。徹也が提示したものは、確証がないものばかりだ。徹也もそれは理解していたようで、舞を安心させるように語りかける。


「……だが、それは最後の手段だ。それよりも先に、情報を集める」


「それよ。どうやって情報を集めるの?今の所、私達にその手段がないように感じるけど……」


 治伽の言葉に、舞もうんうんと頷く。これがまず、最初の壁であった。昨日この世界に召喚されたばかりの徹也達には、圧倒的にこの世界の情報が不足していた。


 情報がなければ、徹也も対策のしようがない。だからこそ、徹也達はこの世界で生き抜く為に、一刻も早く情報を集めなければならなかった。


 しかし徹也は、そんな情報の集め方さえも考えていた。情報がなによりも重要であることは異世界ラノベを読んで学んでおり、同時に受験からも学んでいたからである。


「……だからまず、情報を集める為の手段を手に入れる」


「ど、どうやって……?」


「……王族に取り入るんだ」


 徹也がその言葉を言った瞬間、舞と治伽に衝撃が走った。無理もない。徹也が言った言葉は、それほどに理解できないものだったからだ。


「で、でも才無佐君。さっき、王政に不信感を持つ大臣を探すって言っていなかった?」


「ああ。そう言ったぞ」


「じゃあ駄目じゃない!逆のこと言ってるわよ!?」


「いや、俺は今の王政に不信感を持ってる大臣を探すって言っただけで、王族と対立するとは言ってないぞ?王族は利用価値が高いのが定石だからな。完全に対立したら意味がない。ただ、今は俺達を庇ってくれる可能性が高いやつを探すってだけだ」


「え、えっと……。つまり、どういうこと?」


「……取り敢えず今は、すぐにでも俺達を守ってくれるやつを探すってことだ。その為に王族を利用する」


 治伽は徹也のこの説明にかろうじてついていけたが、舞はもうどういうことなのかさっぱり分からなかった。頭の中が?でいっぱいな舞の代わりに、治伽が徹也に質問を投げかける。


「王がそんな簡単に情報を漏らすと思えないんだけど……」


「そりゃ、王は無理だろうな。だが、それ以外にも王族はいる」


「……なるほど。王の子供から情報を得るのね」


「そういうことだ。俺達と同年代ぐらいの王女と王子がいただろ?そいつらに狙いを定める」


 徹也が言った王女と王子とは、それぞれ王と同じく綺麗な金髪の二人である。正確に言うと、王女が同年代で王子が中学生ぐらいの年齢だ。


 徹也は同年代の二人からならば、情報を得れやすいと考えたのだ。事実、大人達に聞くよりも同年代の方が聞きやすいし、相手も答えやすい。


 徹也の言葉を聞いた治伽と舞は真剣な表情で頷き、徹也の次の言葉を待つ。徹也は治伽と舞が頷いたのを見てから話し始めた。


「王女と王子のどちらでもいいが仲良くなり、そこから情報を得る。後はこの世界の歴史が書かれた本とかがあればいいんだが……」


「えっと……。取り敢えず仲良くなればいいの?」


「そういうことだな」


「なら任せて!仲良くなるのは得意だよ!」


「ふふ。そうね。舞は本当に得意だから」


「ああ。期待してるよ」


「う、うん!任せといて!」


 徹也の言葉に舞は少し赤く染めながら、力強く答える。徹也に頼られたのが嬉しかったのか、やる気が漲っているようだ。


(実際、この中だと小早川と望月に頼むしかない……。俺は初対面だと緊張して話せなさそうだし)


 徹也はこう思い、仲良くなることを舞と治伽に託す。徹也にはそれ以外の選択肢が無かった。それに徹也には、仲良くなる以外にやるべきことがあるのだ。


「……じゃあ、もう時間も少ないし戻りましょう」


「……そうだな。俺は少し遅れて行く。先に行っててくれ」


「え?な、なんで?」


「いやその……怪しまれないように」


「……分かったわ。ほら、行きましょう舞」


「う、うん……」


 舞は治伽に連れられ、徹也より先に集合場所に向かって歩き始めた。

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