第12話 いざ、戦いの地へ
「止めなければ!」
レオも立ち上がった。
「騎士達は今洗脳されている。魔女の命令なら何をしでかすか分からない」
「それってつまり……」
それから先をマイアは口に出来なかった。
リータは力には屈しないのが哲学者の矜持だと言っていたわ。そんな人達が大人しく
騎士と哲学者が衝突するのは火を見るより明らかだ。
そうなれば、武力で勝る騎士の一方的な惨劇が始まってしまうのでは……。
マイアは最悪な状況を想像し顔色を失う。
「君達は哲学者が建てた小屋が近くにあると言っていたな。そこに小径はあるか?」
「あるけど……まさか行くつもり?」
「当り前だ。それは……騎士の務めだ」
ついにマイアも立ち上がった。ミミと顔を見合わせ、頷き合う。
「分かった。私達も一緒に行くわ」
「いや、しかし……」
レオは困ったような顔をした。
「危険だぞ」
「哲学者のクランにはお世話になった人もいるし」
「それに私達の仲間もまだ、1人向こうににいますしね」
ま、何が出来るかと言われれば困るけど。
何せ、未熟な魔女と何の力もない異世界人だ、それでも。
「哲学者の人達に警告するくらいは出来るでしょ」
マイアとミミはレオを連れて来た道を引き返し、観察小屋へ戻ってきた。そこで、再び魔法陣に乗ると、次の瞬間には違う光景が目の前に広がっていた。
「帰ってきたわね」
「誰か、こちらに近づいて来ます」
1人ごちるマイアにミミが小さいが鋭い声で告げた。3人は身を固くする。レオは2人を自分の後ろに下がらせ、柄に手を掛ける。いつでも剣を抜ける姿勢だ。
急ぐ足音と話し声が聞こえてくる。
「こっちよ、急いでっ」
その声が聞こえ誰かが小部屋のドアを開ける。そこに居たのはリータだった。彼女はマイア達の姿を認め、目を白黒させた。
「どうしたの2人とも! それにこの人……誰?」
「リータ! レオ、この子は大丈夫。私達の味方よ」
レオはその言葉を聞いて臨戦態勢を緩めた。
「何を騒いでいるんだ?」
リータから少し遅れてイライアスがドアの向こうから姿を見せる。
「お前ら先に逃げたんじゃなかったのか!? それにそいつは誰だ?」
イライアスも驚いた顔をする。
「騎士達の真の目的が分かったのよ、たぶんだけど」
「はぁ? 僕達を追って来たんだろ」
「それは口実なのよ。 彼は騎士のレオ。詳しい話は省くけど、 彼が言うには、騎士のクランの宝冠、
「えぇっ!」
「何だと!」
2人は唖然と口を開けた。
「その魔女が騎士達を扇動して魔女の森を焼いて魔女を追い出したのも、
「そんな……」
リータは信じられないというように口に手を当てた。
「でも、
「……騎士達はその魔女に洗脳されていると思う。理性的な行動は期待出来ないだろう」
秀麗な眉目を歪めレオが答える。
「それで、お前らまさかそれを止めに戻って来たのか?」
「もちろん、そうよ」
3人は同時に頷く。
「騎士団とその魔女を相手取ってか?」
呆れたようにイライアスが片眉を上げる。
「別に協力してとは頼んでないわよ。この魔法陣で向こうへ行けば、騎士達はもう追って来ないと思うし」
「イライアスは逃げて下さい」
マイアの言葉にうんうん、とミミが同意した。その瞬間、ぴきっとイライアスのこめかみに筋が入る。
「なんだと?」
2人の言い草が彼の矜持に傷をつけたらしい。
「お前らなんかでどうにか出来るもんか! しょうがないから手伝ってやる」
その言葉にマイアとミミはニッと笑い、その様子を見ていたレオは呆れたように首を振った。
「それでどうするんだ?」
「まずは
「それなら学長が教授陣の誰かに言うべきね。学長室がある建物まで案内するわ」
リータはそう言ってふと不安そうな顔になった。
「どうしたの、リータ?」
「ここにイライアスを連れて来るときに、誰かが騎士達の姿が急に増えたって話してるのを聞いたの。でも、騎士のクランと哲学者のクランを結ぶ小径は使われた形跡が無い。だから、何かおかしいって」
「件の魔女が大規模転移の魔法を使ったのかもな」
イライアスが忌々し気に呟く。
「つまり、一刻の猶予も無いということか……」
「急ぎましょう」
5人は走り出して、外へ出だ。リータに導かれ学長の部屋に向かうが、途中ローブを着た若者達の集団に行き当たった。若者達は手にそれぞれ箒やら熊手やらの掃除道具らしき物を持っている。
「あ、騎士のやろう!」
その内の1人がレオを見つけ怒号を飛ばす。それを合図に他の若者達が手に持っている掃除道具を構える。
「ちょ、ちょっと待って! この人は敵じゃ無いからっ。 他の騎士を止めに来たのよ」
マイアが咄嗟に手を広げて若者達の前に立つ。
「マイア……」
レオが困惑したように彼女の名を呼ぶ。
「本当なのか?」
若者達が疑り深くレオを睨んだ。彼はマイアと若者との間に入る。
「誓って本当だ。騎士達とそれを裏で操っている魔女を止めに来た」
「魔女? どういうことだ?」
「簡単に言うと、悪い魔女が騎士達を洗脳して3つの宝冠全て奪おうとしてるのよ」
「あいつらっ……それで!」
マイアの説明に心当たりがあったのか、若者の一人が叫んだ。
「一体何が起きてるの?」
リータが心配そうに尋ねる。若者達は口々に説明を始める。
「騎士の連中、最初は逃げてきた魔法使い達を探していると言ってたんだが、どうも様子がおかしくて。 学長は教授陣にそれとなく騎士達の行動を見張るよう命じたんだ」
「と言うのも、どうも熱心に探すそぶりが無いし、それにしきりに宝冠の話をしていたからだ。それで急に
「そしたら、騎士達が穏便に渡さなければ実力行使に撃って出ると言って来やがった」
「それで俺達は武器になりそうな物を持って、学長のもとへ行くところだ。
鼻息を荒く若者たちをレオは苦渋に満ちた顔で見つめる。
「しかし、騎士達が本気を出したら防ぎ切れるものではない……」
「暴力に訴えて奪うなんざ許されざる行為だ!」
「俺達は暴力には屈しない!」
そうだ、そうだと若者達から声が上がる。
「行くぞ!」
それを掛け声に若者達は走って行ってしまった。
「私達も行かないと!」
後について5人も駆け出す。走りながらマイアはリータに聞いてみた。
「ねぇ、リータなら何か知ってる? 3つの宝冠を集めるとどうなるか」
「分からない。 でも、3つの宝冠はそれぞれ賢人の持っていた能力を象徴したものと言われているの。つまり、知恵と強さと奇跡を、ね。 その3つが揃えば伝説の賢人と同じ能力が得られると考えてもおかしくないかも……実際に得られるかどうかは別にして」
話している内に学長の居る建物が見えてきた。まるでギリシャ神話に出てくるような列柱の並ぶ神殿のような建物だ。その建物の前には、大きな石畳の広場があった。
そこに何十人もの騎士達が整然と並んでいる。その一番前には銀色の髪をした壮年の男性と長い黒髪の魔女が立っていた。相対するように建物を守っているのが老若男女の哲学者達だった。
「あの魔女が、今回の騒動の黒幕ってワケね……」
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