女子高生マイアの異世界冒険譚~魔女っ娘に召喚されたけど特別なスキルは全く付与されていないので部活で培った根性だけで渡り合います~

弓月 夜羽

第1章 3つの宝冠編

第1話 女子高生と魔女っ娘

「よーし、行くぞぉ!」「おー!」


 揃いの黒いユニフォームを着て円陣を組み、フィールドホッケー部の少女達は声を上げる。もうすぐ試合が始まるのだ。

 グラウンドに出る前の薄暗い廊下から舞彩(マイア)を先頭に走り出す。陽が燦燦と照らす外へ向かって。


「マイア、緊張してる?」

「ちょっと、ね」

 

 チームメイトに問われてマイアは無理やり笑みを浮かべて答えた。マイアにとって今日の試合は特別だった。キャプテンとなって初めての試合だからだ。否応なく気合が入る。

 長方形の出入り口から差し込む光が眩しい程に輝いている。マイアはスティックをぎゅっと握りそこへ怯むことなく入って行った。


 が、次の瞬間、彼女の目の前には本棚があった。


 ………………………………は? え、何? どうなってるの? ここどこ?


 てっきりグランドに出るものと思っていたマイアは状況が呑み込めなくて、呆然と立ち竦んだ。


「あのぉ……」


 後ろから誰かの小さな声が聞こえ、マイアはスティックを両手に抱き思わず振り返る。

 そこには魔女っ娘が一人立っていた。少なくともマイアにはそう表現するしか形容出来ない風貌をしている。

 つばの広い黒色の三角帽子に同じく黒色のローブを纏った金髪の女の子で、片手には分厚い本を開いた状態で持っていた。その少女は、マイアよりも頭一つ分くらいは背が低く顔立ちも幼く見える。


 あー、こういう格好のキャラってRPGによく出てくる魔法使いに多いよね。

 ……あれ、今日ハロウィンだっけ? 魔女のコスプレかな、その衣装。

 それとも、まさか試合直前に心臓発作か何かで、気が付かない間に異世界転生しちゃったとか……そういう系?


 とりとめのない考えだけがマイアの頭に浮かんでは消えていく。一方の女の子も驚いた顔でマイアを見ていた。お互いに見つめ合うことしばしの間、マイアはついに口を開いく。


「あの、ここどこ?」


 口をついて出て来たのはそれだけだった。


「えっと、その、ここはわたしの家です…」

「そ、そう。 それで……あー、なんで私はここにいるのか分かる?」

「…わたしが召喚したからです」

「しょう……かん……」


 マイアは女の子の言葉を唖然とした様子で繰り返した。


「はい、召喚魔法で」


 ……それってつまり、世界の危機を救う巫女的なやつに選ばれたってこと?

 よくゲームとかマンガであるよね、そういうの。


 そう考えると、ほんのちょっと心躍るものがあった。


「それって、何か理由があるの?」


 マイアが期待を込めて聞くと女の子は困惑した顔になる。


「えっと、その、練習で……」

「練習!?」


 マイアの大声にビクッと女の子が後退った。


「は、はい…召喚魔法を試してて……」

「何だ、そうなの……あはは」


 期待して損した!


「私がここにいるってことは、成功したのよね?」

「そう、ですね……」

「それなら良かった。じゃ、早速送り還してくれない? 私これから試合あるんだけど」

「えっ?」

「……え?」


 何故呼び出した本人が驚いているのか。


「魔法は成功したんでしょ。それとも何かまだ用があるの?」

「えっと、その……」

「何?」


 弱り顔の女の子にマイアが睨む。


「あの、あなたは妖精ではないんですか?」

「妖精? 違うわよ、もちろん」


 返ってきた答えに女の子は黙りこくった。


「どうしたの?」


 マイアの問いに女の子は躊躇いがちに口を開く。


「あのですね、呼び出した妖精は呼び出す側の魔女の力量に応じて現れるんです」

「それで」

「呼び出しに応じてくれた妖精は自力で還ってくれるんです……」


 今度はマイアが黙る番だった。


 どうやって来たかも判らないのに、どうやって還れと言うのか。


「大体そもそもここどこ?」


 マイアの声に不機嫌さが増す。


「あなたの家って意味じゃなくて、もっと広い意味で」

「えーと、魔女のクランです」

「魔女の……何?」

「クラン。つまり、魔女が集まってる場所です」

「それってフランスとかイギリスとかヨーロッパにある……訳ないか」

「フラ…?」


 ミミが首を傾げる。


「何でもない気にしないで。それよりその本に還る方法載ってないの?」


 女の子は本の頁を捲りだし最後まで見たが、芳しい成果は得られななかったようで、困った顔をマイアに向けた。


「……載ってないです」

「それじゃぁ、還れないってコト?」


 苛立ちを隠し切れず、マイアは思わず持っていたスティックで床を叩いた。ビクッと女の子の体が反応し、顔を青くしつつ後退る。


「本当に、何の方法もないの?」


 じりじりと魔女っ娘にじり寄るマイア。


「その……わ、私はまだ修行中の身なので……ちゃんとした魔女なら知っている……かも、しれません……」

「その人、どこにいるの?」

「え? えっと、このクランのどこかには……」


 歯切れの悪い返事にマイアの顔がどんどん険しくなる。


「じゃ、その人のところまで連れて行って」

「えぇっ……それは……」

「私は早く還りたいの!」


 マイアは女の子の視線に合わせるように身を屈め、顔をぐーっと近づける。


「は、はい……」


 勢いに気圧されたのか女の子が頷いた。


「よし、じゃ早速行きましょ。えっと……名前はなんだっけ?」

「ミミです」

「ミミ、ね。私はマイア。よろしく」

「よ、よろしくお願いしま……す?」

「じゃ、案内してくれる、ミミ」


 マイアはニッと笑った。


「は、はい」


 ミミと名乗った魔女っ娘は持っていた本を棚に戻す。マイアじゃそれに釣られるように目線でその動きを追った。よく見ればここは誰かの家のようだ。左右の壁にはびっしり本が並び、奥の方には2階へ上がる階段もある。変なところがあるとすればマイアが立っている床には魔法陣らしき円形の模様があることと、天井が奇妙に歪んでいることだ。


 この家、大丈夫?


 そんなことを考えていると、ミミが本を仕舞い終えマイアの元に来た。


「ここ、あなたの家なの?」


 マイアは素朴な疑問をぶつけた。


「そうですけど……?」


 ミミは質問の意図が分からないという風に首を傾げる。


「一人で住んでるの?」

「はい。それが?」


 あー親元から離れて修行するって感じ?

 あの箒で配達する映画みたいに。


「ううん、何でもない。行こ行こ」

「は、はい……」

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