未来ファンディング

北条むつき

未来ファンディング

 半年間音沙汰のない友人、御影みかげから、突然一通のLINEが送られてきた。最近、ちまたで流行っているというクラウドファンディングアプリの情報があるからお前もやってみろと言う。


『クラファンサイトの新しい版が出来たみたいなんだ。ちょっと興味あったらみてみー』


 そんな軽いノリで送られてきたメッセージのURLをクリックしてサイトにジャンプした。

 そこには『未来ファンディングフリー魔』と書かれたちょっと怪しげな文字と、あなたの未来を売り買いしませんか。という少し意味深なキャッチコピーが大々的に載り、今まであったようなクラウドファンディングサイトと同様に、各種個人のやりたいことと必要金額が掲載されていた。

 未来を売り買いってどういうことだろうと思い、じっくりとサイト内の文字を読んでいく。


【このサイトは、あなたの未来を売り買いできます。例えば、あなたがゲーマーになりたい場合。ある一定のゲームを習得するのに一年かかるとしましょう。その一年後の未来を誰かに買ってもらい、あなたはゲーマーとして賞金を稼ぐまで成長できるのです。それまでに必要な金額を指定し、未来を買ってもらう仕組みです。要は、あなたがなりたい未来を誰かに買ってもらい、それを目指すというサイトです】


 えっ? マジで。

 文面をみるととても心地よい文字が並び、如何にも未来は約束されたものとして載ってあった。

 無茶苦茶お得だなあと思い、画面を下へスクロールしていくと色んな夢を持った人がたちが、自分の夢を語り金額を指定していた。

 例えばプログラマーで成功したいとか、ビルのオーナーになりたいとか、ボクシングの世界制覇になりたいとか、あるいは、石油王とか。

 今やもう、そう言うことでも金で買えるのかと思えるほど色んな人の夢見る姿が掲載されている。

 ちなみに、俺がなりたい未来は、ロボット工学の第一人者だ。小さい頃から機械いじりが好きだった俺は、専門課程に進み、来年海外へ行こうとプログラミングバイトで今稼いでいるぐらいだ。

 その未来をひとっ飛びに実現できるサイトがこの『未来ファンディング』らしい。


 興味本位で送ってくれた御影に確認のLINEを送ってみた。


『なんだよこれ、面白そうだけど、なんかサイトの作りがブラックだし怪しくないか?』


 すると、すぐに御影からすぐに返信が来る。


『大丈夫だよ。俺も半年前にそのサイト使って、バッキバキの腹筋と豪勢なセレブ生活と彼女が欲しいって書いたんだ。するとさあ? 半年後の今、腹筋バッキバキだし、そのサイトにお願いすると九十六%と未来が叶うらしいぞ』


『九十六%とはどう言うこと? 豪勢だけど、未来はやっぱり百%ではないんだなあ』

『それなりに、自分の努力は必要だしな。諦めたらそこで終わるしな。買ってもらっておいて諦めたら、その買い主が怒って、不利益があるらしいわ。気をつけな』

『不利益って?』

『さあ? 俺もそこらへんよく知らないんだわ。俺達成したし』

『えっ? ってことは、お前彼女できたの?』

『ああ、めっちゃ美人なセレブな彼女がいるよ。今その子とバカンス。俺も叶えられたので、お前にも進めようと思って』


 御影から一枚の画像が届いた。見てみると海外かどこかリゾート地。大きなプール付きの邸宅で、物凄い美貌の持ち主と笑顔で写っていた。


 マジかよ。ここ最近、御影が学校で見なくなったと思ったら、こういうことになっていたのかと、目を丸くしてそのが画像に食い入った。


『成りたい未来をちょっと手助けしてもらえよ。いい人生送れるぞ』

『俺もやってみるわ』

『おう! 頑張れよ。応援してるよ』


 早速、俺自身も試してみようと思い、『未来ファンディングフリー魔』のサイトに飛んだ。表記には本名と生年月日とメールアドレスの欄にそれぞれ入力を済ませた。

 次にあなたのなりたい未来は何ですかの項目が現れる。そこにロボット工学の第一人者と入力する。次へのボタンを押すと、再度あなたの未来に間違いはありませんかと言うメッセージが聞かれる。

 俺は、『はい』を選んだ。すると次の画面では、『必要な金額を指定してください』と表示される。俺は、まあ適当に五百万円と打ち、次の項目ボタンを押す。すると『あなたの未来の金額は合ってますか』と聞き返される。どう言う意味かと思い、『手順のヒント』と言う項目をクリックして内容を確認してみた。

『金額は合っていますかの項目について』を押すと動く文字が現れる。

『金額はあくまで目安です。ある程度の必要な目標金額を設定してください』と書かれてあったので、そのまま五百万円にして次の項目に移った。

 次の項目は、『買われた人にあなたの未来を託しますか』と言うメッセージが現れた。

 俺は託すと言う言葉がど言う意味か先程の『手順ヒント』のボタンを押す。

 またもや文字が流れ出し、『託すとは、未来を買った人に大してお礼をすることです。例えば願う未来を達成した場合、未来を買ってくれた人に直接会い、お礼の言葉を言ってください』

 そう書かれたのを見て「なあんだ。びっくりしたな。会いに行けばいいのか」と託すボタンを押した。『最後に未来にかかる年数を教えてください』とメッセージ枠が現れた。

 俺は考えた。普通にバイトしながら五百万円貯めるとなると相当時間が必要だけど、一足飛びになりたい期間を入れてみようと一年後と入力し終えた。

 最後に利用規約にチェックを入れるボタンが現れる。

 利用規約をみるとズラズラと現れる。全部読むのに時間がかかりそうだったので、俺はそのままボタンにチェックを入れ『完了』させた。

 簡単だな。そう思っていると、画面が急に切り替わる。そして……。


 『あなたの未来金額は五百万円です。ファンディング(資金調達(funding))されると、あなたの過去は売られ、未来が買われます。誰もに買われない場合、あなたはあなたです』と言うメッセージが現れた。

「どう言う意味だよ」

 少し不安になると、手順ヒントの中に過去は売られ、未来が買われると言う項目を探してみた。だが、ヒントにはそのような文言は一文も書いていかなかった。

 内心、やってしまったか。と思ったものの、ただのクラウドファンディングだよと自分に言いきかせた。自分のマイページの情報と集まるであろう金額をじっと眺めていた。

 一時間ぐらいサイトを放置して眺めてみたが、一向に金額が入ることはなく、このまま待っても仕方ないと思い、入金があればメールで届くはずなのでサイトを閉じた。


 その日はメールは来ることがなかった。次の日も、その次の日も、一向に入金されず。メールは届かなかった。他の人はどうなんだろうと思い、見てみると先日最初に見た世界チャンピオンに金額入金されていた。


「くっそ。俺だけか?」


 そう思い、補足文章を変えてみた。自分の夢を応援してもらえるように訂正を加えた。だが、待てども入金は一向にされない。

 二週間が過ぎた頃、御影にLINEを送ってみた。


『全然、入金されないんだけど』

 送るとすぐに返信が返ってくる。

『君だれ?』

『えっ? 何言ってんの? 俺だよ三井、三井吉高みついよしたか

『知らん。ってか、なんでLINE登録されてんのか。わからん。どこかで会いましたか?』

『いや、御影に教えてもらった未来ファンディングで聞きたいことがあるんだよ』

『馴れ馴れしいな。俺もそれはやったけど、君だれよ』


 おいおい。どう言うことだよ。これは……。

 そう思うと先日登録完了の時に流れた文字が気になって、サイトをもう一度みてみることにした。他にこのサイトについて記載あるサイトはないかと、ある掲示板で検索をかけてみることにした。

 未来ファンディングで検索すると、出るわ出るわで色々と記載されていた。

【自分の過去を売って未来を買ってもらうサイト。】

【ほんとに未来なんて買ってもらえるの? 詐欺じゃね?】

【未来なんて買ってもうととんでもないことが起きるよ】

【過去を売られるってことは、自分を失うこと。誰にも相手にしてもらえないよ】

【過去を売ってしまう人は、人生に未来なんてないでしょ】

【未来の年数には元に戻れるって話は本当だと思うよ】

【努力しないと未来はない。イコール過去も未来も全部なくす】

【怖いサイト。でも努力を買って貰えば達成できる。俺は達成できた】

【金額に到達できれば未来は手に入る】

【一旦過去を亡くしたが、達成すれば過去も元に戻る】

【金額に届かないと、身元不明者になる可能性もある】


 色々と書いてある。なるほど、そうか。あの過去を売り、未来を買ってもらうと言う意味は、今までの自分をなくし、努力していれば未来が手に入ると言う意味か。とにかく努力していれば金額が増えるんだと思った。

 俺は、一年という未来をかけてロボット工学の第一人者になると決めたんだ。そうだよ。その努力をしないと、誰にも相手されないと言うことか。

 そう思い、親と妹にLINEを送って、御影と同じように、誰だと返ってくれば、俺はもう身元不明者と言うことになる。


 早速妹にLINEをしてみた。

『かよ。元気か?』

 だが、返信はなかった。親にも電話してみる。

「もしもし、父さん? 俺、吉高だけど。元気にしてるの?」

「吉高? はあ? どちらさま?」

 やはりだった。俺は身元不明者になってしまったんだと実感した。

 一年かけて目標に達成できるように努力すればいいのかと勝手に思い、毎日パソコンでプログラミングをしながら、ロボット工学について勉強をすることにした。


 一ヶ月経つ頃。未来ファンディングの金額が入金された。十万円だった。この調子で行くと一年で五百万円はきついかと思ったが、その一ヶ月後にはゆうに二百万円を超えていた。


 そして半年が過ぎた。半年間、学校に行くが誰とも会話も交わさず、ひとりで勉学に勤しんだ。すると半年で、五百万円の金額が集まっていた。

 サイトを見ると、『あなたの未来は買われました。あと半年で未来は達成します』と書かれてあった。

 俺は息巻いて勉学に勤しんだ。大学院にも通おうと申請をだした。

 だが、その申請は却下された。うちの大学にはあなたは登録されておりませんと言われた。

達成できない。そんな思いが過ぎった。

 大学に居場所がなく、家に引きこもりプログラミングをしてロボットを完成させようとした。

 一年がったある日。未来ファンデンィングからメールが届いた。

 目標金額に達成しています。努力は報われますが、あなたは努力していますか? と言うメッセージだった。

 俺は努力をしていた。たった一人でロボットの開発をしていた。だが資金ぶりがうまいこといかず途中で断念していた。ファンディングでいただいた五百万円はそこをつきようとしていた。研究に必死になって、ろくに食事もせずに没頭しいていたが、完成には至らなかった。

 そんなある日のことだった。未来ファンディングからメールが届く。達成できない場合についてという項目だった。

 出資者がご立腹です。そんなあなたには、『むくいを』と掲載されました。

「えっ……」

 それをみた瞬間、その場に崩れた。力が抜けていく感じで動けなくなった。

 目標金額に達したのに、俺はお礼を言いにいかなかった。だからだと思った。俺の未来を買った人物に会いたくなった。サイトの出資者の蘭に名前と住所が記載してあった。

 なけなしの金を使い、遠くの山奥にいるであろう出資者に会いに行った。


「三井吉高と申します」

「誰だね? そんな奴は知らんが」

 初老の男性はそういうと俺に持っていた鎌を振り下ろした。

「あっ……」

 俺の存在そのものが消された瞬間だった。






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