電脳帰葬少女
瑠璃
電脳帰葬少女
世界は電子に染まりゆく
第1話
未来も未来遠い未来の話――
人間の技術は、ありえないほどの進化を遂げていた。
ありとあらゆるものがデジタル化され、アイテムを使えば誰でも簡単に電脳と繋がれる。そんな、時代。
人間と一緒に、平然とAIロボットが共存し、どんなものでもデジタル技術で実体を作り出せる。
木々は機械的に栽培、食べ物は養殖、ないものは触れるデジタルで作り出せる。自然と呼べるものは極端に減って、浸透したデジタルのせいで元の形もわからなくなってきている。
街の景色が見える「電脳婚を認めよう」という政治家のポスターが貼ってある、進化した車達は浮いていて何の音もなく過ぎ去っていく。
公園、小型のVRゴーグルのようなものを装着し、電脳と繋がって座ったまま動かない人がいる、町ゆく人々は小型ゴーグルを持ち歩いているひとが多い。
ビルのモニターに映るテレビのトーク番組、出演者全員電脳につながり、仮想のアバターでテレビ番組が運営されているのが見える、仮想の世界であれば物でもなんでもイメージしただけで出てくる。
人と機械、デジタルと世界。
混ざりに混ざって一見平和で完璧に見えるこの世界の姿は「偽り」だ。
一人の少女が歩いている
あり得ないほど世界に浸透したデジタルは、大量の「バグ」を生んだ。
デジタルになじめなかった物、ものになじめなかったデジタル。
そういったものが「バグ」になり怪物をうみだした。
現実世界に影響を及ぼすほどの。
――突然建物の窓が大量に割れ、町ゆく人たちが悲鳴を上げ、逃げ惑う。
うっすらと大きな何かの影が見える。
先ほどの少女が影の前に立ち首から下げていた特殊なグラスを目にかける、もやもやした影がはっきりとしたモンスターに見えこちらを向いている。
少女「・・・・」
少女が腰から何かを手に取る、刀の柄とつばだけの物を握りしめた彼女が軽く身構えると柄とつばの先から電気の刃がシュッと出てきた。
モンスターが唸り攻撃してくる、が、涼しい顔で攻撃をかわし電気の刀で腕を切り落とす。
モンスターの腕が、ポロポロと消えていく・・・
少女は勢いよくモンスターに切りかかり、いくつかの斬撃を与えるとモンスターは力尽きポロポロと消えていった。
完全に消滅したのか、それとも元のデジタルに戻っていったのか。
彼女たちはこの事を「帰葬」と呼んでいる。
――パトカーのサイレンが鳴り響く中、警官とロボットたちが現場を収集している。
遠くから現場をのぞいていた少女が、振り向き立ち去る。
道に止めてあった車輪の無いキックボードに足をかけ一蹴りすると、すぅーっと少し浮きながら進んでゆく。
この世界の住人のほとんどは気づかない、見て見ぬふりをする者もいる、深刻で致命的なバグ達。
少女は町はずれの路地にある「拠点」に付いた、ドアの横にキックボードを立てかけ、中に入っていく。
体格がよく、見るからに豪快な男性がこちらを見ている。
「おぉリン、どうだった?」
「大したことないよ、ザコ」
そういうとリンという名の少女は冷蔵庫から飲み物をコップに注ぎ、飲み始める。
「そうかい」
大柄の男性はそう答えると、機械をいじり始めた。
彼の名前はバロウという、バグを検知できるレーダーを使用して指示を出すリーダー的存在である。
「まーたクールに決めちゃってー、かっこいいなー!」
ソファーに寝っ転がりながらチャラ付いた茶髪の青年がリンにはなしかけた。
「うるさい、シュウ」
リンは呆れた顔で椅子に座った。
共に両親がいないリンとシュウは小さい頃にバロウに拾われ育てられた。
バロウは元警察官だが、バグを取り除くことに注力するべく引退。リンとシュウを育てながら仕事をしていたが、今では3人チームで動いている。
部屋に置いてある超薄型のモニターでは「中毒者」を逮捕したというニュースが流れている
「お、この前俺が捕まえた奴じゃん。」
とシュウが呟く。
「暴れて物を壊す程度だったみたいだな、大した罪にはならねぇだろ」
バロウが雑務をしながら答える
「ふーん」
シュウは興味なさそうにモニターを眺めていた。
電脳に染まりすぎた者、魅せられた者、あるいは抜け出せない者。
彼らは「ジャンキー(中毒者)」と呼ばれている、基本は病気として扱われるが犯罪に手を染める人間も多い。
電脳は進化を遂げ、肉体にまで影響を及ぼすレベルに到達した。
サプリメントの様な使い方はもはや当たり前になり、電脳を健康管理に使う事は人々の生活に完全に浸透している。
当然、過度な使い方をすれば体に悪影響なわけだが、それを快楽と感じるジャンキーも多い。
電脳につながることで肉体を強くしたり、超能力者の様な能力を少しばかり手に入れる人間もいる、いわゆるドーピングだ。
大抵のジャンキーは、電脳が完全に遮断されると、体も心もボロボロの状態、酷ければ廃人になるのだが。
デジタルが生み出した「バグ」と電脳に侵された「ジャンキー」
この世界の欠陥とも呼べる存在を取り締まるのがリン達の仕事だ。
「久しぶりに博物館に行ってくるよ、暇だし」
リンはそういうと立ち上がり二人の顔を見た
「好きだねぇ・・ 暇なら俺がデートしてやるのに」
シュウがリンにふらふらと近寄りながら言う
リンがシュウの頭を小突く
「いてっ」
「気を付けてな」
「うん、行ってきます」
リンはバロウにそう言って拠点から出ていった。
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