第1-6話 ほら、俺の知らないところで世界は回る


「なんか様子変だったけど、どうかした?」

「ん?」

「昼の時」


 懲りずに訪ねた就活サポート課で、叶ちゃんは先回りするようにピーチティーを用意して待っていてくれた。何それ、嬉しくなっちゃうじゃん…。来るってわかってたの?


「…もう淹れてくんないって言ってたのに」

「今日は特別」

「……ふーん?」


 嬉しい。

 誤魔化すようにして一口飲んだピーチティーの程好い甘味が、心の凝りを溶かしていくようだった。


「ほら。今も。なんか、元気無い?」

「………そんなこと、無いし」

「嘘じゃん」


 心配してくれてるけど、眉毛を下げるんじゃなくて、気安くケラケラ笑う。それが心地いい。『嘘じゃん』なんて言い方も、俺仕様だなと思う。普段なら、『嘘でしょ』って言ったろうから。そういうとこ、くすぐったい。


(……なんで、叶ちゃんにはわかるんだろ。……家族とかは、誰も俺の事なんて気が付かないのに……)


 温かくて、哀しい。

 どうして、俺じゃないんだろ。でもすっかり、俺は秋夜の事も大切だった。俺の好きな人が俺の好きな人を好き………。


(………ああ、もう、ほら、……応援するしかないじゃん………)


 ちょっと望み薄かもしれないけど。叶ちゃんが振られた時は傍で慰めてやろう。


 ーーーと、そんな気長なことを考えている間に、二人の仲は急に縮まることになる。

 秋夜が校内で倒れたらしい。叶ちゃんから連絡があった。栄養不足と脱水症状だとか。なんでも、金無くて飯食べて無かったらしい。……やりかねない。アホだ。無頓着過ぎる。……頼れよ。気が付いてやれなかった…。たまたま居合わせた叶ちゃんが病院に付き添ったらしい。


 それから程なくして、「もうおはようコールいいから」と、あんなに朝が弱かった秋夜が告げる。目が白黒した。言いたいことが沢山あったはずなのに、飲み込んだ。俺の中の察しのいい俺が「これは何かあるね。あの二人」と告げる。

…ああ、くらくらする。ほんと、何もかも急だよ。付いていけない。俺は結局きっと、モノガタリの主人公にはなれないのだ。


 いつだって、俺の知らないところで、世界は回る。
















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