婆っちゃん

婆っちゃん

わたし譲りの無鉄砲で子供の時から損ばかりしている、わたしの孫。

なんで学校の二階から飛び降りたりしたのかしら。

色々難はあったけど、立派な大人に育ってくれたのは何よりだわ。ああ見えてあの子、結構心配性な所があると思うわ、私に似てね。

私は小学生の時お転婆だなんて言われたけど、なんでそんな時から婆なんて言われなきゃならないのよ。今は孫に婆っちゃんなんて呼ばれてるけれど、それはむしろ嬉しいわ。ばっちゃんていう響きが良いじゃない。ババァとか言われるよりは良いじゃない。

最近、井戸端会議の時間が、長くてながくてどうしましょう。

わたしの家の近所には、山田さんの奥さんがいるんだけど、あの人がまた曲者なのよね。

彼女、会うたび自分の孫の自慢ばかりしてるのよ。そりゃ可愛いし、自慢したくなるのわ分かるわ、孫だもの。

でもテストで80点とった事を自慢されたところで、何て返せばいいのよ。私の孫は毎回数学が満点だなんてもちろん言わないわよ。それがただの嫌味だってことくらい私にだって分かるわ。

けど彼女ほど私は盲目的ではないはずよ。私とか山田さんくらい年を重ねたら、小学生のときの記憶なんてほとんど残っちゃいないわ。でも小学校のテストで80点をとることが自慢できるほどのことなのかしら。そんなことないわよね。

山田さんの話を孫とする時は、気を付けてるんだけど、つい本心がでちゃうのよね。孫は彼女のこと慕ってるみたいだけど。

ところで山田さんは孫に何て呼ばれてるのかしらね。おばあちゃんかしら。

おばあちゃんだなんて順当な呼ばれ方したくないから私は婆っちゃんて呼ばせてるのよね。

いや、どうだったかしら。あの子が自分から婆っちゃんて呼び始めたのかしら。私が強制したわけではないものね。

それかサチヨかしら。サチヨが自分の息子に、自分の母親のこと婆っちゃんて呼ばせてるのかしら。

そうだとしたら少し癪に障るわね。自分の事はお母さんて呼ばせといて母親のこと婆っちゃんて呼ばせるってどうなのよ。べつに私は嫌ではないわよ。そう、嫌ではないわよ。

私は祖母のこと、なんて呼んでたかしら。なんだったかしら。

そう、ツル婆だわ。ツル婆って呼んでたわね。なんたって名前がツルなんだもの。ツル婆が一番しっくりくるわよ。

でも私がそう呼んでること、ツル婆はどう思ってたのかしら。

私はツル婆には似てないのよね。だってあの人は本当に温厚だったもの。怒ったところなんて見たこともないわ。そして私もツル婆に腹を立てたことは無いわ。強いて言うならツル婆が亡くなった時くらいかしら。腹を立てたというか、やるせなかったの。早すぎるのよ。ツル婆…。

そう、私が婆っちゃんて呼ばれてる話ね。

ともかく孫に私の呼び名を変えてくれなんて口が裂けても言えないわよ。そもそも私はこの呼び名が気に入ってるんだもの。婆っちゃんと呼ばれるにふさわしい婆っちゃんになりたいとまで思ってるわ。

追記

この手記を誰かが見たら、絶対に孫には見せないでおくれ。