混沌の邪神のしもべ2 天秤の都市

かつエッグ

プロローグ 天秤の都市

 王都を西に進むこと300キラメイグ。

 中央大陸がアダマン海に面するその地に、港湾都市ヴィスィエーがある。

 馬で陸を旅してきた者であろうと、船でアダマンの海を渡ってきた者であろうと、ヴィスィエーに近づけば、いやおうなしに目に入る、構造物がある。

 それは、ヴィスィエーの街の中心部に、高くそびえ立っている。

 都市を守るための、高い石造りの城壁さえも、そのものの威容をさえぎることはできない。

 城壁を越えて、さらにその上にそびえ立つ黒光りするそれは——。

 天秤。

 とてつもなく大きな天秤である。

 天秤の二つの皿は、海の災厄とよばれ、一口で船をも飲みこむ巨大な海魔、レビアタンさえも軽々と載せられるほど大きい。

 巨大なその天秤が、いったい何でできているのか、だれにもわからない。

 だれが造ったのかもわからない。

 とうてい人の手になるものとは思えないそれは、いつとも知れぬ昔からこの地にある。

 古いにしえから存在するこの天秤のまわりに、人が集まり形作られたのが、ヴィスィエーの街なのかもしれない。

 そして、その天秤は、一方の側に大きく傾いているのがわかる。

 海から見れば左。陸から見れば右。

 その側が大きく沈み込み、そちらの皿は地面に接している。

 当然のこととして、反対側の皿は大きく持ち上がり、高く宙に浮いている。

 どちらの皿の上にも、なにも目に見えるものは載ってはいないのだが……。

 天秤はいつからこの状態となっているのか。

 そしてそれはなぜなのか。

 確かなことはなにも分からない。


 だが、ヴィスィエーの人びとの間に流布している、こんな戯れ歌がある。


 ――われらが町にゃ、神さまの天秤。

   一つの皿は、善神パリャードさまのお皿。

   もう一つの皿は、邪神ハーオスさまのお皿。

   天秤は、ご覧のとおり、傾いてござる。

   さてさて、皆の衆、どちらの皿がどちらの御神のものなのか?

   その答えは、神様だけがご存知だ。

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