第53話 あの子ってさ

「さて、次は」


「プログラム三番、クラス選抜リレーです。出場選手はスタート位置に集まってください」


「選抜リレーだな」


 俺は筋肉だけじゃないという所を、フェルデンに見てもらわねば!


「うーん、久々に俺の出番かー」


「…………」


みやび、やめてくれない? その「え、こんな奴いたっけ?」みたいな顔」


「いや、見谷みや。お前がいる事は忘れていない。ただ、こんな顔だったかなと再確認していただけだ」


「んー、それ忘れているのと一緒な気がするけどー」


「まぁ、細かい事は気にすんな。スタート位置に行こうぜ」


「雅さん、見谷さん、頑張ってくださいねっ」


 今日も癒しのガッツポーズフェルデン。


「ありがとー」


「おうっ」


はるさんも頑張ってくださいっ」


「ああっ、ありがとなっ」


 バケゴリに頭……、鉄仮面を撫でられ嬉しいオーラが出ているフェルデン。


「…………」


 わかっている、わかっているとも。聖母様の愛はみんなのために、だとも。

 天を仰ぎつつ、スタート位置へ向かった。







「雅ってさ」


 伸脚している俺に見谷が話しかけてきた。


「何だ」


「フェルデンさんが好きでしょ」


「ぬごー!」


 足が滑り危うく腱を切りそうになった。


「なっ、なっ、何を言うか!」


「えー、違うのー?」


「……まぁ、好きだが」


「やっぱりー」


「……だって可愛いだろ」


「まぁ、鉄仮面を被っていてもあれだからねー。わかるけどさー。でもさ、クラスメイトに顔を見せないっていうのはさ、失礼なんじゃないかなー?」


「……お前も派か」


 体勢を整え、足を変えて伸脚しながら尋ねた。


「そっち派って?」


派、ということだ」


「みんなそうじゃないのー?」


「他の奴らは知らん。だが、俺は。それでいいと思っている、派だ」


「鉄仮面を被ったままで、顔を見せなくてもいいってこと?」


「誰しも一つや二つ見せたくないものあるだろ。俺だって隠せるもんならこの筋玉を隠してぇよ」


「あははっ、雅は上手いこと言うねー。でも、あの子ってさ——」


「……え?」


 見谷の信じられない言葉に、伸脚のまま固まった。


「……嘘、だよな?」


 見谷を見上げると、人懐っこいけど冷酷な笑みを浮かべた。


「嘘じゃないよ。だって俺の親友がんだから」


「…………」


 俺を通してフェルデンを見ているような気がして、鳥肌が立った。


「だからさ、悪い事は言わないから、あの子はやめときなよ。俺の親友みたいになりたくなければね」


 第一走者だから見谷はスタート位置に着いた。いつもの明るい笑顔に戻っていたが、逆にそれが怖かった。


「…………」






 あれから、クラス選抜リレーは俺たちがトップでゴールし、紅白軍と点数がほぼ並んだ。


 それを見て喜び、「お疲れ様でした」と声をかけてくれるフェルデンに、俺は生返事しかできなかった。

 

 見谷の言った言葉が、頭の中をぐるぐると回っていた。





















『あの子ってさ、殺人鬼なんだよ』


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