第52話 好きさアイアンヘルム

「では、ここでブレイクタイムです。これは点数には関係ないので、生徒の皆さんも、観客の皆さんも、気を楽にしてお楽しみください」


「ブレイクタイムか……」


 題目が書かれた紙をぐしゃぐしゃに丸め、短パンのポケットに突っ込みながら、自分のクラスの所に戻った。


 先に戻っていたフェルデンが、ぴょこぴょこ顔、いや、鉄仮面を出しながら、次の出し物に注目している。

 真面目だから立ち上がらず、座ったまま背伸びをしている所が、可愛さハンパねー。


みやびさんっ、ブレイクタイムって何ですかねっ? プログラムには『アイドルショー』って書いてありましたが」


「…………」


 アイドルショー。もう、しかねーじゃん。こんなんわかりやすいのに、気づかない鈍さもたまらんわー。


「それでは皆さん、お聴きください。グロース兄弟の新曲『好きさアイアンヘルム』です。どーぞ!」


「…………」


 うわー、ドストライクな新曲キター。ドン引きー。ん? 昔こんなこと言っていた芸能人いたな。そうだ、NIKKOニッコーさんだ。ドン引きーってな。俺はNIKKOさんを真似して、右手の人差し指を横に振った。


 俺がNIKKOさんになっていると、ヲタ双子がアイドル衣装で、手を振りながらグラウンドの中央に向かっていく。

 うわー、その黒の軍服ちっくな衣装くそ似合ってるし、肩にある鉄仮面のブローチ勲章みたいなのには重い愛を感じるし、顔は相変わらずくそ良いしで、くそ腹立つわー。


「って、え!?」


 グラウンド中央が、舞台みたいに上がっていくぞ!?


「あ、校長先生の許可をもらって、パパに改造してもらったんだー」


 俺の声が聞こえたのか、ヲタ兄が答え、校長に向けウインク。開いてるのかわかんない糸目で、校長もウインク。


 いや、自由な学校なのはいいと思うけどよ、自由すぎね? そして、どんだけ力あんの、双子パパン。


「ヴィエルさんたち、かっこいいですねー」


「……そうだな」


 隣から嬉しそうな声が聞こえたら、もっとやれ! としか言いようがない。


「君はーアイアンヘルムッ、僕は君に

アイラブヘルプッ」


「……」


 ヴィエルが歌い出した。本業パワー、恐るべし。ワンフレーズで女子が色めきだっているし、上手いことアイアンヘルムと掛けてやがる。


「見えないフェイス、全てはフェイク?」


 眼鏡なし本気マジモードサージュが続く。


「君ーはアイアンヘルムッ、僕たちアイドルヘルムッ」


 ……アイドルヘルムって何ぞ。


「溢れ出るフェロモンッ」


 うん、それはわかる。


「「届いてるかなこの気持ちっ、見えないからわからない」」


 届いてるぞ。ビンビンと。


「「近づくだけでメロメロッ、心溶けるっ」」


 どーぞそのまま溶けて消えて、もう邪魔しないでくれ。


「続きは、ダウンロードかCDを買ってねー」


 ヴィエルの締めで、アイドルショーは終わった。


 しかし、いいとこで止めるな、策士だな。って、それもそうか、COO(最高業務執行責任者)と、CFO(最高財務責任者)だもんな。


「絶対ダウンロードするわー!」


「CDも買うー!」


「…………」


 儲かりまんなー!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る