第41話 キュムキュム?

 こうして、今日の放課後はパフォーマンス練習となった。


 今の時代は、動画という便利なものがある。だから、それを見てダンス練習は各自でやるようにとの事。


 ちなみにあの後、応援団長特権でバケゴリが持ってきたCDの中から女子の曲が決まる事になった。で、それを選ぶ権利を与えられたフェルデンが目を瞑って指を差して、選んだのが。


上向うえむきざか36サーティーシックスの『キュム』可愛いですね」


 携帯で動画を見ていたフェルデンが、楽しそうに言った。


「デビュー曲らしいぞ。ダンスもだが歌詞も可愛いと女子がキャッキャしていた」


「最初から可愛いですよね。キュムキュムキュム、キュムどうしてっ。キュムキュムキュム、キュムどうしてっ」


「……フェルデン、もう一回。俺を見てやってくれ」


「え? あ、はい」


 フェルデンは俺の方を向いて。


「キュムキュムキュム、キュムどうしてっ。キュムキュムキュム、キュムどうしてっ」


 えげつない可愛さで歌った。声良すぎ!


「……ドキュム!」


「えっ、大丈夫ですかっ? みやびさんっ」


「大丈夫……。今、俺は最高の波を感じている……。ついでに、もう一ついいか?」


「はい、何でしょう」


「首を傾げて、尋ねるみたいにやってくれるか」


「……キュムキュム?」


 フェルデンは首を傾げて「こうですか?」みたいに言った。


「……ありがとう神様。俺、生きていてよかった」


 手を組み、天を仰いだ。


「本当に大丈夫ですか?」


「オールオッケー!」


「ならいいんですが。男子の曲の『愛』もいいですねっ。特にサビの部分が。愛している貴方の、指の混ざり、頬の香り、種族を超えてゆけ」


「……そうだな」


 種族、か。俺は人間で、フェルデンは悪魔。

 それに、種族以上の問題もある。


 何故、顔を見せたくないのか。

 何故、恋愛をしないのか。

 何故、卒業したら、もう魔界から出ないのか。


「意味なんか、ないさ約束しただけ、彼女は帰るわ、魔界の人々の群れ。ってか」


「雅さん?」


 あーダメだ。キュムキュム? の破壊力がすごすぎて、現実を見たら悲しくなってきた。

 こういう時こそ、『愛』や『キュム』を聴いて、明るい曲を聴いてっ、元気を出さねば!


「よーし! 練習しよーぜ! あー、でも、どうせなら大音量で聴きたいが。ここで聴くと中で練習しているバレー部とかに迷惑か」


「大丈夫です! こういう時のために!」


 フェルデンはブルマのポケットから。


「これを持ってきましたっ」


 白いイヤフォンを取り出した。


「…………」


「一つしかないので、一緒に聴きましょうっ。まずは『愛』からっ」


「キュム!」


−−−−−−


 あとがき。


 『上心』を持っているから、『上向坂』(笑)


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