第33話 もしもしフェルデン、フェルデンさーん

 バケゴリの死角、つまり、屋上から見えない体育館裏に来た。


 屋上は本棟、つまり、教室や職員室、保健室や食堂がある。体育館があるここ別棟は、渡り廊下で繋がっていて、距離もある。


 つまり! いくら視力視力10.0のバケゴリでもここなら見えぬ! はず!


「よしっ、じゃあみやーびーの三分トレーニングー。テレレッレレッテッ、テッテッテッテテテー」


「ふふっ」


「まずー、壁に両手を突きます」


「はい」


 俺が一メートルくらい離れ、体育館の壁に両手を突くと、隣に来てフェルデンも真似をした。


「次にー、体を斜めにします。腰が反りすぎたり、猫背にならないようにしましょう」


「はいっ」


 俺たちは体を斜めにした。ふんふん、腰も反ってなく猫背でもない。足と一直線だな、いい感じだ。


「そうしたらー、片足を上げー下す時ー、地面を強く押します」


「はいっ」


 二人で片足を上げ、下す時に強く地面を押した。


「同じように反対側もしてー、交互に上げ下げしていきましょう。初めはゆっくり10回頑張りましょうっ」


みやびコーチ、これはどんな効果があるのですか?」


 コーチ……、好きな響きだ。


「これはなっ、前傾姿勢の意識を付けるんだ!」


「なるほど!」


「足を下ろす際にしっかり地面を押す! これがポイントだ! 空き缶を足底全体で押しつぶすような感じでっ、日頃の鬱憤うっぷんでも晴らすようにやってみろ!」


「はい! 鬱憤はないのでっ、意気込みを! 私は!」


 フェルデンは右足を上げ。


「どんなに足が遅くても! 最後まで全力でっ走ります!」


 足全体でしっかり地面を押した。そして左足をあげ。


「でも! 少しでも速くなる事も! 諦めません!」


 下ろした。


「いい感じだぞっ、フェルデンくん! まずはこれを二、三日続けてみようか!」


「はいっ」






 翌日の昼休み。


「……確かに、続けてみようかと、俺は言った。が!」


「足底全体で! 空き缶を潰すように!」


 もしもし?






 放課後。


「前傾姿勢を体に染み込ませる!」


 もしもし? フェルデンさん?





 

 翌々日の生徒玄関。


「交互に! 何度も!」


「…………」


 もしもしフェルデン、フェルデンさーん。

 世界の内でーお前ほどー。

 真面目前向きな奴はないー。

 どうしてそんなに真面目ちゃんっ。


 ……フェルデンさん。

 そこまで真面目に、どこでもやらなくていいからー! 俺たち笑われているからー!


「見て見てー、豆先輩がリールお姉ちゃんにやらしい事させてるー。これだから玉付き豆は嫌なんだよねー」


「兄さんに禿同はげどう


 ほらー! またイケメンヲタ来たからー!


「つーか! やらしくない! もうすぐ体育祭だからっ、トレーニングだ!」


「えー?  お姉ちゃんの可愛いお尻を見たいだけでしょー?」


「それもある!」


「やっぱりー。それにトレーニングってさー、お姉ちゃんに尻筋を付けさせる気ぃー? あんなに程よく柔らかくて、弾力もあって揉み応えがあるのにー?」


「……揉んだ事あんのか?」


「うん、もちろん」


「どうやったら揉めるんだ?」


「え? ただ揉ませてってお願いしただけだよ?」


「……」


 んなの子の特権をフル活用しおってー!


「羨ましいぞー!」


「てへぺろ」


 ヴィエルは目に重なるように斜めにピースをし、ウインクして舌を出した。顔がいいから何かイラッとするわー!


「……お二人共」


 フェルデンがトレーニングをやめて振り向いた。


「なーに? リールお姉ちゃん」


「朝からお尻とか揉むとか……、恥ずかしいことを言わないでください……」


「じゃーあ、久しぶりに揉んでいーい?」


「はい」


「……」


 いいのかよ!

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