第32話 お前ん家、ホントみんな何なん

「特訓、しないのですか……」


 俺の言葉にフェルデンは落ち込んだ。

 そんなにしょんぼりすんなよー! 俺だって二人きりの特訓をしてーよ!

 でも今の見ただろ!? 応援旗がヒュッて! 俺の頬を掠ったの! 血ぃ出たの! バケゴリが怖ぇんだよー!


 だが! 不埒ふらちな真似=ボディタッチと見た。タッチしなければ、もう何も飛んで来ないであろう。


「……そうだな。じゃあ、こうしよう。一人でもできるトレーニングを教えよう! それで色々と基本を身につけたら、特訓を始めよう!」


「はいっ。あ、その前にみやびさん」


「何だ?」


 フェルデンは短パンのポケットから何かを取り出し。


「はい、これで大丈夫です」


 応援旗でダメージを食らった頬に貼ってくれた。


絆創膏ばんそうこうか?」


「はいっ。メイドが私専用に作ってくれたんですっ。可愛いですよっ」


 フェルデンはもう一つ絆創膏をポケットから取り出し、見せてくれた。

 薄いクリーム色にピンクの花柄。なるほど、確かに、可愛、い!? 俺は思わず絆創膏をガン見した。


 運動神経だけはいい俺、その次にいいのが視力だ! 俺の目は誤魔化されない! この花柄! よーく見ると、小さな『愛』という漢字でできている!


 ……ぞわわっ。ヤンデレと同じ狂愛を感じるぞ。


「……お前ん、ホントみんな何なん。つーか、実はフェルデン、お嬢様だろ」


「え、そうなんでしょうか? 私は自分がそうだと感じた事はありませんが。でも確かに、執事やメイドはリールお嬢様と呼んでくれます」


「うん、だからお嬢様なの。執事とメイドがいる時点でお嬢様なの」


 特大玉見せびらかし爺さん。俺の情報を握る執事。狂愛絆創膏のメイド。


「お前ん家、ホントみんな何なん」


 そして、改めて実感した。そんなイカれた奴らに囲まれて育ったのに、このピュアさ。やっぱ『ダブエデ』のピュールだわ。投書してやろーかな、こいつをモデルにした、というかパクリましたね? 訴えますよ? って。


「それに」


 こんな天使よりピュアの親は頑固ときた。悪魔なんだろうが、どんな両親だよ。


「それに、何ですか?」


「あー……。それにー加えて、頑固な両親。お前ん家すげーなと思ってな」


「……そうですね。みんなすごく私の事を可愛がってくれて、この顔で泣いている時は心配してくれて。楽しく生活できるように、色んな方法を考えてくれて」


「……そうか」


「魔界では悲しい事の方が多かったですが、みんながいたから、今日まで来れました。私はみんなが大好きですっ」


「……いい家族だな」


「はいっ、だからこそ雅さんっ」


 フェルデンは俺の両手をがしっと握った。


「お、おう」


「みんなにもありがとうを返したいんです。そのためにも、少しでも足が速くなって、クラスやチームに貢献してっ、楽しんでいる姿を見せたいんですっ」


「…………」


 とても前向きで可愛いで賞をやろう! それと同時に俺は、その思いに応えるで賞をもらった!


「よしわかった! なら、やっぱりまずは、自宅でもできるトレーニングだ! 裏技とかも知ってるけど、どうする?」


「裏技は最後の最後にしたいですっ。とりあえず、ひたすらにやってみたいです!」


「うむ! だが、焦らず無理せずヤケにならずだ。コツコツとやっていこう!」


「はいっ」


「そのためにまずは、バケゴリの死角へ移動しよう!」


「はい!」

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