第30話 雅体操第一ぃ

「じゃあ、放課後、練習すっか?」


「はい! よろしくお願いしますっ」


みやびぃ、あたし視力10.0あるからな! どこで何をしていてもくっきりはっきりわかるんだから、不埒ふらちな真似すんなよ!?」


「10.0!? それはもう! ムキゴリどころか新種の種族! バケゴ」


「あーん?」


「何でもありません……」


「そこの三人ー、静かにしろー」


 ササっちの、ナイスタイミングな注意のおかげでこの話題は終わり、命拾いした。 新種の種族! 化け物とムキゴリの遺伝子を持つ、バケゴリ族! と言いそうになった。今度こそマジで、空の星になるとこだった。


「種目もいいが応援合戦の団長も決めないとなー」


「あたしやるよ! ササッち!」


 バケゴリが手を上げた。


赤町せきまちかー、そりゃいいなー。応援賞はいただいたも同然だなー」


「雅さん、応援合戦、そして、応援賞とは何ですか?」


「学年やクラス、団単位でな、音楽に合わせて歌ったり踊ったりして、チームを応援すんだ」


「それはかっこいいはるさんにピッタリな競技ですね!」


「そ、そうか? 相変わらずリールはおだてるのが上手いなー」


 バケゴリは照れながら俺の頭をバッシバシ叩いた。もうやめてくれ、これ以上されたら床に埋まる。


「クラス選抜リレーは、雅と見谷みやと赤町でいいな」


 見谷、そんな奴いたなー。周りがイカれすぎていてすっかり忘れていた。


「雅は二周してもらうぞー」


「ういーっす」


「二周? どういうことですか?」


「クラス選抜リレーはな。四人選抜なんだが、必ず四人じゃねーんだ。得意な奴がいたら何周でもしていいんだ、ウチの高校は」


「そうなんですかー。でも、一人で二周、大変そうです……。雅さん」


「おう」


「頑張ってくださいね! 私っ、応援します!」


「お、おう」


 フェルデンが俺を応援、いや、選抜リレーの時だけは俺だけを応援!?


「晴那さんも、見谷さんもファイトです!」


 なわけないですよねー。


 ま、ガッツポーズフェルデンが見れたから、良しとするか。







 放課後のグラウンド。


「では、雅さん、よろしくお願いします!」


「お、おう」


 体操服の半袖短パンに着替えた俺ら。

 しかし、体育の時間の度に思っていたんだが。鉄仮面を被っているのに、体操服の破壊力ハンパねー! ちっさ! 細っ! 色白いろしろっ!


みやびぃあたし視力10.0あるからな! どこで何をしていてもくっきりはっきりわかるんだから、不埒な真似すんなよ!?』


「……」


 バケゴリの言葉を思い出したら、起っきしそうになった玉が寝た。よしよし良い子。


「オー! ファイ!」


「バッチコーイ!」


「ディエンスしっかりー!」


 陸上部、野球部、サッカー部等が、練習をしている。


「雅さん、まずはどうしますか?」


「そうだな、怪我をしないように準備運動だ」


「はいっ、わかりましたっ」


「えー、雅体操第一ぃ、伸びの運動ー」


「ふふっ」


 今もあるラジオ体操を真似る。


「息を吸いながら腕を前から上げー、息を吐きながら腕を横から下ろすー」


 俺は言葉の通り、息を吸いながら腕を前から上げ、息を吐きながら腕を横から下ろした。


「息を吸いながら腕を前から上げー、息を吐きながら腕を横から下ろすー」


 フェルデンは俺と同じことを言い、同じ動きをした。

 そして、俺たちは伸びの運動を二回やった。


 ……もしもし? ちょっと待って?


「腕を振って脚を曲げ伸ばす運動ー。かかとを引き上げー腕を交差しー、腕を横に振って脚を曲げ伸ばすー。腕を振り戻してー交差しながらー、かかとを下ろしてー上げるー」


「腕を振って脚を曲げ伸ばす運動ー。かかとを引き上げー腕を交差しー、腕を横に振って脚を曲げ伸ばすー。腕を振り戻してー交差しながらー、かかとを下ろしてー上げるー」


 もしもし? だからさ。


「腕を回す運動ー。腕を体の外側から内側へと大きく回しー、反対回りー」


「腕を回す運動ー。腕を体の外側から内側へと大きく回しー、反対回りー」


「……」


 いや、だからさ。


 俺の言動を繰り返しているだけなのに、何でそんなに可愛いの?

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