第27話 おおっ、マリアー
「よかった。これで皆さんと仲良く過ごせそうですっ。このマカロンも美味しいっ」
「……」「……」
放心状態の二人を置いてよく食べれるな……。
「お待たせしました。黒カレーとブラックモンブラン、紫芋モンブランでございます」
タイミングよく
こういう時は腹を満たすしかない!
「いただきます! んっ!? 何だこれ! マジ
少し噛めば溶けるようになくなる牛すじ! パワー
「やべー! スプーン止まらねー!」
このイカスミライスも美味い! イカスミ初めて食ったが、カニ味噌のような苦味と甘味! そして濃厚な魚介味!
そして、このライスによく合う、牛すじとにんにくの旨味が効いたカレールー!
「たまらん! 止まらん!」
あっという間に。
「ふいーっ。食った食った」
完食した。
恐ろしいぜ、このカフェ。見た目で怯えるなかれ、美味すぎだ……。
「やだー、
「ん?」
「そんなんで、リュゼはデートしたくなーい」
リュゼに何故か引かれ、ラーテルには笑われた。
鏡がないからわからん! それに、仕方ないだろ! イカスミライス食ったんだから!
「いいではありませんか。お歯黒の雅さんも素敵ですよ」
生きた屍状態の双子を連れたフェルデンがやってきた。
お歯黒豆も受け入れる心の広さ。この聖母様を、卒業するまでに振り向かせないといけないのか……。
「雅さん?」
「うおっ、はい! 雅です!」
だから、この驚き方ダセーっつーの。
「ふふっ、美味しそうなカレーでしたね。にんにくのいい匂いが、まだ残ってますね」
「そう、だな……」
「リュゼさんも、ラーテルさんも美味しいですか?」
「ふえっ?」「えっ?」
フェルデンはモンブランを食べていた双子に声をかけた。
「お、美味しいわよっ」「う、うん。丁度いい甘さで美味しい」
「よかった。さすが、ヴィエルさんとサージュさんが考えたメニューですっ。ふふっ」
「……」
フェルデンは、鉄仮面の中にあるであろう微笑みを振り撒き、牢獄へ戻っていった。なんちゅー聖母様だ。
取り残された生霊化しているイケメン双子は、
「魔界をぶち壊すのがダメなら、乗り込むしかないよねっ」
「姉さんの実家に」
「サー、イエッサー」「サー、イエッサー」
と、訳わからん敬礼をしていた。
※ ※
翌日の昼休み。
「……」
目の前で穏やかに読書をしているフェルデンを眺めた。
ここを卒業するまでに顔を見れなくても、連絡先を聞いてちょこちょこ会えばいいじゃーん。焦ってバカみたいだったじゃーん。
と、思ってきたとこだったのに。
卒業したら魔界に帰る!? 連絡先を聞いても無意味じゃん! 普通に考えて異界は電波が届かないだろーがよ!
「おぉっ、マリアー。お前はどうしてマリアなのにー、魔界に帰ってしまうんだーいっ。わたしーをーのこーしてーっ!」
胸に手を当て
「私はリールです。マリアではありません」
フェルデンは本をパタンと閉じ、振り向いた。
「知っていーるーさーっ、お前はーフェルーデーンッ。我がとーもーよーっ」
オペラは続く。
「そうです。雅さんのお友達です」
「友なーらーばーっ、何ー故ーにーっ、その友を置いてーいくーのーだーっ」
「……そういう約束ですから」
いかん。フェルデンの声が沈んだような気がする。落ち込ませたか!?
「なーんとかー、親ーをーっ、せーっとくできなーいのかーっ?」
「二人共、頑固ですから……」
むむむっ、オペラが効かない!
「……なので、お別れは必然です」
「おー別れーなんてーっ、いーやーだーっ」
「大丈夫です! 思い出をたくさん作れば、お別れなんて一瞬の出来事ですっ。だからっ、だから……、私とたくさん思い出を作りましょう!」
「それならー」
「ん?」「え?」
「アタシが購買デビューさせてあげるわーんっ!」
ああ……、ヲタ双子のせいで、すっかり忘れていたが、そういえばいたな、一番強烈な奴。
ヤンデレが開いていた教室の入り口からバッサバッサと飛んできて、フェルデンを抱き締めた。
「あの子たちから聞いたわよーんっ、卒業したら魔界に帰るんですってー?」
「はい」
「もぉっ、どうして早く言ってくれなかったのぉー? もっと早く言ってくれればぁ、魔界に帰ればリールたんを独り占めできるんだからぁ、豆の玉潰しばかり考えなくてよかったのにー」
確かに。
「それは……、魔界に帰ったら、家から出ないと決めているからです」
「はぁ!? 何で!? どうしてよ!」
「……やっぱり、色んな方を苦しませるこの顔は、家族の前だけ。それが、安全で安心だからです。あ、でも、べトゥラさんが考えてくれた、この鉄仮面には感謝しています。ありがとうございます」
「リールたんが悪いわけじゃないじゃない! なのに! なーんで! リールたんが悩んで帰らなきゃならないのー!」
ヤンデレは、抱き締めたままフェルデンを揺さぶった。
やはり、同じ悪魔のこいつが一番、鉄仮面の理由を知ってそうだ。
何故、フェルデンの顔を見ると苦しむのか。何故、鉄仮面を被ったのか。
だが、このヤンデレは死んでも教えてくれんだろう。ならば!
『大丈夫です! 思い出をたくさん作れば、お別れなんて一瞬の出来事ですっ。だからっ、だから……、私とたくさん思い出を作りましょう!』
たくさん思い出を作り! その中で! フェルデン自ら外してもらうしかない! 鉄仮面を!
「よしわかった! 購買の達人の俺が、どんかものか教えてやろう!」
「はいっ、お願いしますっ」
「アタシが教えるから、豆は引っ込んでろや」
「サーセン……」
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