第12話 初恋-12
階段の下でミキは、北斗を待っていた。六時間目が終わり、バタバタと階段を降りてくる生徒たちの中で、ひとり傘を持って立っていた。通り抜けていく生徒たちの奇異な瞳に臆することもなくじっと待っていた。やがて、北斗が降りてくると、ゆっくりと後をつけて歩き出した。そんなミキを、少し離れて由理子はついて行った。
北門を出て北斗は左に曲がろうとした。と、校門の反対側から数人の学生が北斗を呼び止めた。そして連行されるように、連れられていった。その様子を立ち尽くして見ているミキに由理子は追いついて、
「なに?どうかしたの?」
と言ったが、ミキは首を振るだけだった。北斗らの姿が見えなくなると、ミキは意を決したように傘を由理子に押しつけると駆け出した。制止する由理子の声も無視して駆け出していた。
城仙公園の緑道を通り抜け、市立図書館の裏の植え込みの中で北斗はリンチを受けていた。ミキはその光景を前に立ち尽くしてしまった。十人ほどの学生の輪の中で、北斗は玩具のように振り回され、蹴られていた。ぼんやり立って見ていたミキに怒声が向けられた
―――こっち来んな!―――
が、ミキは呆然と地に伏せている北斗を見つめていた。
―――何、見てんだよ!―――という怒声とともに一人が、ミキを追い立てようとした。ミキは押し退けられながらも、その場を離れることができなかった。北斗は無理やり立ち上がらされて、殴られた。
と、その瞬間ミキは目の前の学生を押し退けて、いま北斗を殴った学生に飛びついた。
「逃げて!」
突然の乱入に驚いた学生たちは、一瞬怯んだ。ただ、北斗は、北斗だけがその声に反応して駆け出した。
―――待て、この野郎!―――という台詞とともにすばやく追い掛けようとした学生の足に飛びついたミキのせいで、学生はミキもろとももんどりうって倒れ込んだ。学生が起き上がると北斗の姿はもう見えなくなっていた。そして、学生たちの視線は、ミキに集まっていた。
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