第3話 無垢なる勇者の買い物

 とある日の事だった。

 クレアの母親が彼女に買い物を頼んだ。


「クレア」

「なに?お母さん?」

「道具屋さんに行って薬草を8個くらい買ってきてくれない?お母さん、今、料理してて手が放せないから」


 と母親はクレアに100ゴールドを渡した。

 薬草の値段はほぼ世界共通で8ゴールドが標準的な値段だ。高くても9ゴールドくらい。

 この世界の薬草は大体が切り傷の治療や打撲の治療、風邪などにも効く世間一般的な薬である。

 これ以上の治療効果を求めるなら薬師と呼ばれる人から専用に調合を頼んでもらうのが効率的だ。

 その薬師だが基本的に魔法使い関連の職業の人物がなる傾向がある。魔法使いの修練を充分に積んだ人間が僧侶としてか、若しくは薬師として転職するのが一般的。僧侶と薬師は大体は似通っている。

 僧侶は聖職者で、神に誓う使徒として回復呪文などを扱う人で、薬師は聖職者ではなくどちらかと言えば医師に近い立ち位置だ。いわゆる魔王退治のパーティーには僧侶が入るのが主流派だが、薬師もかなり重宝はする職業だ。しかし、アイテムの専門知識が必須条件なので僧侶になり呪文で対処するパーティーが多い。

 クレアは街の道具屋にいく。店主はどこにでもいるおじさんである。


「道具屋のおじさん。こんにちは」

「クレアちゃん。こんにちは。どうしたのかな」

「薬草を8個欲しいの」

「薬草8個だね。…すまない。クレアちゃん。7個しか在庫ないや。最近、風邪が流行っているからたね」

「いくら?」

「薬草の値段は8ゴールドに7個だから56ゴールドだね。残り1つはさっき薬師の人が通り過ぎたからその人から買うといいよ」

「わかった。ありがとう」


 しかし薬師という人は一体、どういう格好をしているのだろう?

 一目でこうという特徴が無いから困る。しかもクレアからすれば薬師なんて見た事もない人だからだ。

 街を困ったように歩く彼女をエリオットが見つけた。


「クレアちゃん。どうしたの?」

「エリオットおじさん」

「誰か捜している人がいるの?」

「あのね、薬草を売ってくれる薬師さんを捜しているの」

「道具屋さんで買えないの?」

「在庫なしだって」

「普段より風邪が流行っているからだね。一緒に捜してあげるよ」

「薬師さんなら結構目立つ格好だからわかるよ。黄色いユニフォームを着ているから」

「じゃあ黄色いユニフォームの人を探せはいいの?」

「そうだね」


 街の中心部に行くとその薬師のユニフォームを着た男の人がいた。

 彼は品切れ中の薬草を売ってくれているので、皆は彼から購入していた。


「あ、あの……」


 クレアはドキドキしながら話しかける。何せこの子はなかなかの引っ込み思案だからだ。


「お嬢さん、いらっしゃい。どうしたのかな」

「薬草を1個ください」

「1個でいいの?」

「うん」

「じゃあ、15ゴールドもらうね」


 随分と高い薬草だと思ったエリオット。相場として8ゴールドか、高くて9ゴールドだろう。何で15ゴールドも請求するのか訊いた。


「15ゴールドはちょっと破格な値段じゃない?その薬草、本当に世界で出回る薬草なのかな?」

「いいがかりはよしてくださいよ。薬師の薬草はそんじょそこらの物より良い物使っているんだから」

「嘘つけ。薬師は世間一般的に出回る薬草でも調合レシピでいい効果を出す事が出来る技術があるから薬師として認められるんだ」

「さてはペテン師だな?」

「な、なに言ってるのかな……旦那…」

「本当の薬師なら試させて貰うかな。調合でこの薬が出来るか?名前は聴いた事はあるはずた。『ニュートラライズ』。さて作ってみろ」


 目の前の一見薬師は明らかに狼狽する。そんなの聞いたことないぞ、みたいな空気を出していた。

 エリオットはこのレシピは知っている様子だ。魔法使いの知識として知っているらしい。

 彼はそこで断言した。


「やはりペテン師か。大方、この街で薬草が品切れだから高く売りつけようという転売目的だな」


 そこで街の人々が集まり、皆で文句を言い出す。


「やっぱりそうか!薬草が1つで15ゴールドなんて高すぎると思っていたんだよ!」

「転売目的の奴らか!ひっこめ!ペテン師!」

「俺達から巻き上げた金を返せ!」


 自分を薬師と売り込みをしていたペテン師は街の人々から半殺しに遭って、その後、訪れる事は無かったという。

 クレアはエリオットが出した問題、『ニュートラライズ』の作り方を訊いた。


「エリオットおじさん。さっきの『ニュートラライズ』の作り方って何を調合するの?」

「簡単だよ。薬草と毒消しを調合すればいいだけ。初歩的な調合さ。だけど薬師の調合でないとできない薬だね。何せ本当は存在しない筈の物を作り出す技術だから」

「物識りだね。エリオットおじさん」

「魔法使いはそれが命だよ。どんな知識でも活かす場面さえあれば役に立つって事さ」

 

 彼らは別の店に行く。

 そこはよろず屋さんだったが幸運にも薬草が売られていた。

 ようやく薬草の買い物を終えたクレア。

 これもエリオットのお陰だった。

 彼女はお礼をして、帰宅して行った。


「ありがとう。エリオットおじさん」

「クレアちゃん」

「はい」

「買い物には充分、気を付けた方がいいよ」

「騙されやすいタイプだよ、君のような純粋な女のコはね」


 しかし。その忠告もよくわかってない程、まだこの子は幼く無垢なる勇者だった。

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