「きつねうどん」

ろわぬ

第1話

「きつねうどん」 一。


「(追いかけてきてるな・・・)」


「ガサッ ガササッ!」


先程、峠(とうげ)の立ち食い蕎麦(そば)屋で


きつねうどんを完食した


サラリーマン。


"鈴木 英孝(ひでたか)"は、


暗い、夜の峠道を歩きながら


家路に着いていた・・・


「ガサッ ガササッ」


英孝が、脇を林に囲まれた細い道を


歩いていると、


後ろの方で物音がする


「(・・・・)」


「ガサッ ガササッ」


"何かが遅(つ)けて来ている"


「(・・・・!)」


満腹になって、ゆったりと


自宅への道を引き返していた


英孝の歩調の間隔が、少しだけ早まる


"いえ、何でもないです・・・"


「(きつねか--?)」


「ザッ ザッ ザッ ザッ」


そう言えば、さっき立ち寄った立ち食い蕎麦屋。


無心でカウンターの上に出された


きつねうどんを箸でつ突いていると、


少し離れた場所でソバを食っていた


きつねが、うらめしそうな顔をして


自分の事を見ていた事を思い出す


「・・・・!」


「ザッ-- 


ザシャッ ザシャッ ザシャッ」


「"!"」


「ガサッ ガササッ」


「っ!」


英孝の歩調が速くなると同時に、


後ろから聞こえて来た物音が


さらに大きくなってくる


「・・・!」


「ザッ! ザッ! ザッ! ザッ」


「ガササッ ガサッ ガサササッ」


「(ま、まずい!)」


後ろに何がいるかは分からないが、


英孝は何となく後ろを振り返るのに


気後(おく)れして、


後ろを振り返らずに、


そのまま猛然(もうぜん)と狭い道を走り抜ける!


「ザッ! ザッ! ザッ!


 ザザッ! ザザッ ザザッ!」


「はッ! はっ! はッ!」


「ガ、ガササッ ガサッ ズシャッ!」


「(お、追いつかれ--ーーー)」


何かが迫ってきているが


いつの間にか、


"足音"は、


すでに自分のすぐ後ろまで迫ってきている!


「う、ウワァアアア!」


「"!"」


「ズサッ ズササササッ」


「(な--)」


「うわぁあああああ」


余りに夢中で走り過ぎたせいか、


英孝は道から反れ、


そのまま林の中の坂を転がり落ちる!


「ぐ、ぐぁぁあっ」


「ドンッ」


「ゴロッ ゴロロロロロっ」


半垂直の斜面の上を英孝の体が転がって行く!


「う、うわああっ!」


「ズサッ! ズササササササッ!」


「(お、落ち--)」


転がり落ちながら、


夢中で坂の途中に生えていた草を掴(つか)む!


「うっ、うぉっ--ーー」


「・・・・」


夢中で草を掴むと、


英孝の体が、斜面の途中で止まる--ーー


「(あ、危なかった--)」


落ちている途中は気が付かなかったが、


冷静になって自分が転がっていた


斜面を見渡すと、この坂は大した


坂でも無い様だ


「(・・・・)」


"ぱっ ぱっ"


英孝は、ワイシャツについた泥(どろ)を払うと


斜面の下まで降りて行く


「(・・・・)」


"こんな場所あったのか"


いつも、通い慣れているはずの


帰り道だった筈(はず)だが、


その脇の斜面の下の林がどうなっているかまでは


全くと言っていい程興味がなかった


「・・・・」


斜面の中程で坂の下に目を向けると、


下の方に何かが見える


「(何だ、あれは---)」


「ざしゃ ざしゃ ざしゃ--」


「(こんな所に家なんてあったのか)」


英孝は、坂を下りながら


まるで蛍(ほたる)の様に


家から漏れる明かりに吸い寄せられていく---


「("きつね"だ..)」


「コンっ コンっ コンコンコンっ」


古びた、藁葺(わらぶき)屋根の


民家の側の竹藪(たけやぶ)の中から、


家の中を覗(のぞ)くと、そこには、


大量の神社の神主の様な服を着た


きつねたちがいるのが見える


「コンっ コンっ」


「こんこんこんっ」


「(・・・?)」


中の様子が気になって、


隠れながら狐たちの様子を伺(うかが)っていると、


狐たちは丼(どんぶり)の様な物を取り出して


何かを箸(はし)でつついている


「("きつね"だ・・・)」


「こんっ」


「こんこんっ!」


少し遠めの、狐たちがいる居間の中を見ると、


どうやら、きつね達が箸でつ突いているのは


先程の峠の蕎麦屋で自分が食べた


"きつね"


の様だ--ー


「(な、何で"きつね"なんか--)」


「ガサッ」


「!!?」


「こんっ」


「(ま、まずい!)」


「がたっ」


「がたたっ」


いつの間にか英孝の後ろにいた


狐が一鳴きすると、


居間できつねをつ突いていた


狐(きつね)たちが、おそろしい速さでこちらに向かってくる


「う、うわぁあああああっ」


「ザッ ザザザザザザッ」


「こんっ!」


「こんこんっ!」


「こんこんこんッ」

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