時間は不平等に
シヨゥ
第1話
時間は平等に過ぎていく。つまりは体は平等に老いていく。それなのにも関わらず死の訪れは人によってバラバラだ。同じ日に、同じ病院で産声を上げた双子の兄の生太。兄は今まさに天へ続く坂をゴロゴロと全速力で転がっている。
「ようここまで頑張ったなぁ」
枯れ木のように細くなった生太の腕を母が撫でている。すでに危篤状態の生太がそれに応えることはない。
「生まれたときは生太のほうが丸っこくて、育太のほうが早うお迎えが来るとは思っていたのに。お前が先とはな」
それでも母は語り掛け続ける。
「丸っこすぎたのがいかんかったのかな。よく食うからうれしくて、あれもこれもと食べさせのがいかんかったかな。
育太はまったく肥えんかったのに、お前ばかり縦にも横にも伸びて。こりゃあ育太の力を吸っているんだろうと思っとったよ。育太が生太に食われて死ぬんじゃないかと怖くなったこともあった。
病気をしなかったお前がただのひとつの病気でこうまでとは。ほんとに残酷じゃ」
母が語り掛けるその言葉に自然と涙があふれてくる。
巨漢でがっしりした兄。そんなイメージがぼくにもまだあって、こんな枯れ木のような人は兄じゃないとどこかで否定している気持ちがあった。それでも顔は兄なのだ。否定しようがない。
「母さん、少し休まんと体壊してしまうよ」
ぼくの声掛けに母さんは首を振る。
「分かった。ほどほどにね。母さんが倒れたら、兄さんも喜ばんから」
ぼくはそう声をかけて病室を後にした。
あれからしばらくして兄さんは旅立った。そして今年三回忌を終えた。
ぼくはまだ兄が生きられなかった時間を生きている。
過ぎる時間は平等だが、与えられた時間は平等ではない。法要のたびにそう痛感する。
ぼくに与えられた時間はあとどれほどか。その時が来るまで兄の分も生きようと決意を新たにするのだった。
時間は不平等に シヨゥ @Shiyoxu
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