2. 見知らぬ白い地




 ゆっくりと目を開けて、窓から差し込む眩しい光に思わず目を細める。

 あれから少し眠ってしまったのか。欠伸をしながら大きく伸びをする。


 眠気を覚ますために外の空気を吸おうと、椅子から立ち上がり扉に手を掛ける。

 目を擦りながら外に出て、目を瞑りもう一度大きく伸びをする。

 そして、再びゆっくりと目を開けた。


「──え」


 目を開けて見えた景色は、いつもの森──

ではなく、どこまでも続く広大な花畑。


 それにただの花畑ではなく、一面真っ白な花畑だ。


 状況を上手く飲み込めない私は、目をまん丸にしてただ立ち尽くしていた。


 とても夢だとは思えない。

 太陽の眩しさも、暖かさも、花の香りだって確かに感じる。


 思わず後ろを振り返る。

 そこには私が慣れ親しんだ古い木でできた小屋とは全く違う、レンガ造の小屋があった。

 中の造りも全く異なっており、私が持ってきた鞄だってない。


 一応頬を強くつねってみる。


 ──痛い。


 じんじんと痛む頬を摩りながら、今度は花畑の方へ歩き始めた。


 一面に白い花が咲き誇り、そよ風が吹くたびに花の香りが鼻をかすめる。

 突然見知らぬ土地に来てしまったようだが、不思議と恐怖はなく、何故かすんなりと状況を受け入れることができた。


 ──ずっと前に来たことがあるみたい。


 花を踏んでしまわないように足元に目をやると、風になびく白いワンピースの裾が見えた。

 こんなに綺麗な白い花畑で白いワンピースを着た私は、なんだかお姫様にでもなった気分だった。


 腰まである自分の長い黒髪が風に揺れる感覚すら心地良い。


 透明に近い透き通った白の瞳を持つ私は、目が痛くならないように手のひらで目元に影を作りながら一歩ずつ慎重に歩いていく。


 丁度花がない場所を見つけ、ゆっくりと腰を落とす。


 これからどうしよう、なんて考えは全く思い浮かばなかった。

 ただただこの景色に感動し心を満たされていた。


 それからどれくらい時間が経ったのだろうか。

 後ろから小さく、ホーホーと動物の鳴き声が聞こえた。


 振り返るとそこには真っ白で黄色い目のフクロウが首を傾げてこちらを見ていた。

 白い花畑に白いフクロウがいる様子もまた幻想的で、思わず笑みが溢れる。


 「おいで」


 待ってましたと言わんばかりに私の肩へ飛び乗るフクロウ。

 頭を優しく撫でていると、フクロウの足元できらりと何かが輝いて見えた。


「あら、随分とお洒落なフクロウね」


 足にはフクロウの目と同じ黄色の宝石が埋め込まれた小さなリングがつけられている。


 「あなた飼われてる子ね。迷子なの?」


 探しに行ってあげたいけれど、生憎私はここの土地勘がないどころか、ここがどこなのかすらわからない。


 どうしようかと悩んでいるとフクロウが突然私の後ろへ飛んで行った。


 「あ、ちょっと──」


 フクロウを追うように後ろに振り向く。


 その時私は息を呑んだ。


 私を見て大きく目を見開く綺麗な男の人。

 雪のように真っ白な髪に、澄み切った夜空のような黒い瞳。


 時が止まってしまったような感覚だった。

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