日本の料理、蓋物、座付き吸い物
皆様新年健やかにお過ごしでしょうか?
前回前々回と二話を贅沢に使い、日本の料理の紹介を「積み重ね」て参りました。
そして今回も日本の料理を取り上げます。都合三話を使わせて頂きます。
おせち料理でしたら「三段重」ですかね。
できるだけ皆様に料理のお話を温かいうちにお届けしようと考えた、私なりの「馳走」で御座います。
引退された花板さんから直接お話をお聞きして、その興奮も「覚めない(冷めない)」うちにお届けしたく思います。
前話では生酢を取り上げさせて頂きました。
格式が低いなんてとんでもない。
歴史あり、心遣いありと、とても美味しい思いやり。
では、逆に格式の高い料理とは?
丁寧に教えて頂けました。
膳の左上の隅が一番格式の高い料理が置かれるそうです。
ですが、膳を頂く客人としては「中心」にまします料理こそが一番目を引くと思います。
それは間違いなく美味しいお料理。
ですが、料亭の「一番」は左上の隅に在り。
蓋物。ふたものと言うそうです。
蓋をされた料理。
膳には蓋物はその一つだけ。秘されたその中身とは?
料亭の板前さんには様々な呼び名、役職があるそうです。
花板は料理長とされます。献立や全体の流れを把握して殆どの役目をこなせる人もいらっしゃいます。
そして今回は「煮方」(にかた)です。
文字通り煮物等を受け持つ板前さんです。
この人は「味付け」も担当されるそうです。
更に
「向板」(むこういた)と言う板前さんもいらっしゃいます。
向板は煮方の扱う食材を料理に合わせて剥き、切り、下拵えをされるそうです。
それを受けて煮方が調理をして味を決めていくのです。
最終決定は花板に確認をしますが、途中の調理が下手では献立が崩壊します。
ですから向板に煮方に花板は正に「経験豊か」な板前さんがつきます。
煮方は「食材」「出汁」「調味」、料亭の秘奥を修めていらっしゃいます。
その逸品が蓋物とされる事が多いそうです。
料亭の正に珠玉の雫。小振りであったとしてもそこに「世界」があると言っても良いと思います。
そして、本来なら料亭で「一番先」に出される「逸品」があります。
今回は最後の紹介となり、順番としては逆さである事はご容赦下さい。
居酒屋さんや小料理屋さんでは
先付け。お通しが先に出てくると思います。
ですが料亭の始まりには
座付き吸い物
が出される事が多いそうです。
お吸い物です。
ですがただのお吸い物では無いのです。
これは料亭、板前さんからの「説明」なのです。
お吸い物を皆様が作るとしたらどう作られますか?
想像し難かったなら、お味噌汁でも構いません。
具材も調味料も必要ですが、一番大切なのは
「出汁」
でしょう。
そうなのです。
座付き吸い物とは、「私達はこの様な出汁の使い方を致します」
そう客人に「お伝えする」役目が有るのです。
客人はその吸い物をすいながら、「昆布が強いかな」「鰹節の風味が芳しい」等と自身の「味覚」に「説明」を受けるのです。
日本の料理には「出汁」は大切な物です。
煮方の料理が蓋物となる事が多いのはその料亭の「味」である出汁を十分に堪能出来る物である場合が殆どだからです。
更に座付き吸い物はそんな味気ない「説明」の為だけではありません。
日本料理は美味のみではなく「淡白」な薄味でもあります。
その淡白を淡白足らしめるのも「出汁」
座付き吸い物は、一口目は少し薄味で不安を感じるかもしれません。
ですが、二口、三口とすいますと舌が出汁を受け入れて
最後のひとすいが吸い物の極上の一口となる様に作られているのです。
料亭料亭と、我々には縁のない場所だと思われると思います。
ですがお気に入りの料理屋さんで、もしそのような逸品が有ったなら…
素晴らしいと思いませんか?
私は料亭等には出入りした事も御座いません。
ですが日本酒を呑みたくて、人に連れて行って貰った小料理屋。
その小料理屋の名物と言う「貝の煮付け」
私は貝の独特の風味が苦手でした。
ですがその煮付けは薄味で歯ざわりも柔らかく、上手く生臭さを消していました。
今ではその貝の煮付けは好物ですらあります。
その様な拙い話をさせて頂きましたら、その花板さんはうんうんと頷かれて。
「良い物をたべられたね」
と、仰って頂きました。
更に私は一人者ですから料理も少し致します。
そしてその料理を他人と分かち合う事も。
その時に「配膳」を少し知っていますと失礼も少なくなります。
料理の話ばかりしたと思われるかもしれませんが、向付けや蓋物は「配膳」も重要では無いでしょうか?
もし左右逆であったなら、自慢の逸品が向付け。生酢和えが蓋物にと、あべこべです。
私は自身の料理を「失礼」な物にしたくは無いので、この様な花板さんのお話はご馳走で有るばかりでなく、襟を正す物でもあります。
どうでしょうか?
食べる事は「自由」であるべきだ。
そうおっしゃる方のご意見も最もです。
ですが、知らないから自由自儘が正しいとは限りません。
正道を知った上でそれを「外す」事は面白いと思いますが。
今回含め三回三話は「想像の料理」をご馳走させて頂きたく覚めやらぬうちに記しました。
我々は日本にいながら多国籍な料理を味わえます。
でしたら原点に帰って「日本の料理」を探訪する事も悪い事では無いと思います。
敷居は決して高くはありません。
世の中が落ち着きましたら是非とも楽しみましょう。
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