第19話人間の首輪

質問です。



労働とは気持ちの良いものですか?


それとも苦痛でしょうか?



真偽は定かではありませんが、私の先輩が更衣室でネクタイを緩めながら言いました。


「ネクタイなんてのは『奴隷の首輪』を面白がった貴族が作った物でな。現代の勤め人の奴隷の首輪だよ」


「私はネクタイはナポレオンが冬戦争をするにあたって服の隙間風を防ぐのに採用したと聞きました」

そう答えますと、先輩は一説だよ一説。と皮肉な笑いを浮かべていました。


今ではネクタイは正しく私にとって『首輪』となっています。


スーツには様々な人を縛る「鎖」が仕込まれています。

ネクタイ等もそうですが。


カフスボタン。


これもナポレオンが冬戦争に挑むにあたり、兵士が鼻水を袖で拭いてカピカピになるのが皇帝の軍隊に相応しくないと、袖に邪魔になるカフスボタンを付けて袖で鼻水を拭けない様にしたとか。


今ではカフスボタンはスーツの中でも「個性」を出す場所として、カフスボタンを装飾具に変えたりしてスーツに洒落っ気を出す場所ともされています。


ワイシャツですが。

今では襟にボタンが付いたワイシャツが多いかと思います。

それを日本人はネクタイがズレない為にボタンが付いていると思い、ネクタイのお供としてその襟のボタン付きのワイシャツをよく選ぶ様です。


ですが時代と所が変わりますと。

その襟のボタンはスポーツをする時に襟が捲れて邪魔にならない様に固定しておく為のボタンでありまして。

ネクタイ着用のビジネスシーンにそのシャツを着ているとひんしゅくを買う…と言う危険なシャツでした。


ポロ…と言う馬上スポーツの正装がボタン付きのワイシャツ。ポロシャツです。


ですが、人気のある映画や漫画や小説にもそのポロシャツが個性的に描かれ、日本人は飛びつきました。

今では私の様な古い人間でもポロシャツを着ている人間は多いです。

マナーでも述べましたが、時代により様々変わるものですので。海外の要人がメディアでポロシャツを着ているのを見ますと…時代も進んだなぁ…等と思ってしまいます。





先にも述べましたが、皆さんは労働についてどう思いますか?






皆さんは様々な形で「時計」を身に着けていると思います。

朝は目ざまし時計。

ポケットにはスマホや携帯電話の液晶時計。

腕時計もありますよね?

少し変わると懐中時計ですとか。


そうです。時計です。


我々は時間を共有する目安として、「一時間」ですとか、「17 時」に待ちあわせ。等と時計を使った生活をしていますよね?



遡り室町時代でしたら。

大抵は日の出と日の入りを目安に生活していました。時計等は宣教師や大陸から機械式が伝わった位でしょうか。

今より灯りが普及していませんので、日暮れには大抵の活動を止めて、睡眠に向けて行動します。ですから時刻は季節で変わります。夏至と冬至がわかり易いですかね。

早起きは三文の「得」と言う諺があります。

単純に考えるだけでも、日光で早起きすると、「灯り」に使う薪や油も不要ですから「タダ」で灯りが得られますから得ですよね?

早寝も夜に使う薪や油を節約出来ますから得です。

現代の様な「不夜城」の如き明るさは人間にとっては極々近代の出来事なのです。






そして、これが「江戸時代」だとしますと。



腕時計等は持っている人は未来人か何か。

あって持ち運べる当時の小さめの時計。


まだ庶民は基本、日の出と日の入りを目安に生活していました。


そしてお寺等が六つ時、ですとか決まった時間に鐘を鳴らしていました。特に八つ時は有名ですよね。おやつ時…です。今でも間食をしますよね。

お寺には日光を利用した「日時計」ですとか。

日時計よりも正確な「線香」を使った時測りもありました。

線香も太さや長さで、これは一刻で燃え尽きる。これは半刻…等と組み合わせある程度正確に時を告げていました。

お寺での修行や行事には時測りが不可欠でしたから、どうせ毎日測るなら…と、町人にも知らせました。


ですから江戸時代の日本はある程度時間を理解しながら「仕事」に取り組んでいました。


街々にある木戸番小屋も決められた時刻に門を開けて、決められた時刻に門を閉める。

先進的な「時間都市」でもありました。





ですが大抵の仕事は「雨天」には「休み」にもなったようです。

室内での仕事よりも圧倒的に外仕事が多かったですから。

江戸は大工さんがかなり多かったとか。

ですから大抵外仕事の大工さんは雨天は休みです。


農村でも雨天での畑仕事は危険ですし、作物も傷みますから休みです。農村では代わりにムシロや草鞋を編んだりと内職もしていた様ですが。



今ですと考えられませんよね?

外仕事でも「雨天決行」が多いですし。屋根のある仕事場は年中無休の場合もありますよね?



流石に「天気」を現代日本に当てはめるのは難しいですが、「時計」が人々を縛っている…とは思います。


五百年位昔は「時計」は首輪ではありませんでした。

ですが現在では人の自由を拘束する「首輪」の一つではあると思います。




海外に話が飛びますが。



大英帝国が繁栄した影には、「時計」と「ある飲み物」が存在していた。

そう言う話があります。



江戸時代の日本もそうなのですが、時計が普及していなくて、仕事中の「飲酒」も認められていました。

今でも地域では「大工さん」の休み時間に「お重の馳走にお酒」を届けないと大工さんが怒って仕事を遅らせてしまう…そう聞いた事はないですか? 

大工さんに対する風評被害ではないですが、大工さんは完全な専門技術集団で、ご機嫌伺いの必要な立場…とされていました。


大英帝国を始め欧米も飲酒は当たり前で、深酒の為に午後は休み…なんて言うのが多かったそうです。


そこに「時計」が導入されます。

24 時間が導入され、決められた時間を「労働」にあてるのが何となく「決まり」になってきますが、飲酒は依然としてありました。


そこに労働者の自由が残っていました。

第二次世界大戦の時でさえ、大英帝国海軍等は「ジン」の配給がありました。

お酒は労働者の権利として存在していました。

有名なビーフィーターのジンには衛兵が描かれていますが、彼等もジンを愛飲していたとすると親しみも湧きますよね?



ですがそこに強烈な一撃を放つ「飲み物」が現れます。


珈琲です。



珈琲はご存知カフェインが含まれていて覚醒作用のお陰で眠気を飛ばします。


そして味の良さもあり、事業主は酒の代わりに珈琲を飲ませます。


初めて珈琲が出た時はその黒い液体を「悪魔の飲み物」として拒否や忌避されもしたそうですが、味が良く、眠気を払うのでものの本では時の教皇や司祭が珈琲に「洗礼」をして浄化した…と言う話もある程。



酒を駆逐し時計と珈琲が大英帝国の労働者を縛りました。



「霧の街」ロンドンの出現です。


大英帝国は驚異的な成長をしました。霧の街の霧とは今で言う「科学スモッグ」であったそうです。その霧の街が象徴する様に急激な経済成長だったのです。


労働者はまた自由を失いました。




現代に戻りましょう。



我々は仕事のお供に時計と珈琲を使用する事に疑問は持たないでしょう。



ですが、ビジネスシーンで、スーツでデスクに向かい、珈琲を飲みながら残業する…


スーツでなくても、時計を持ち歩き、時間を目安に行動する。



最近は珈琲より「エナジードリンク」が幅を利かせて人々から安眠を奪い労働に駆り立てる。


更にはその様なビジネススタイルを当たり前とする企業が「労災殺人」を起こしたりしています。


「殺人」なんて大袈裟な…とは言えない世の中になっいているのは恐ろしい事です。



皆さんに言いたいです。


命は一つなのです。


「お前の代わりなんていくらでも居る!」


嘘です!



「休みたいなら自分の代わりを探す努力をしろ!」


休息は権利です!



「一流になりたければ一流のビジネス本の生活をしろ!」


人それぞれの一流がある!



皆さん。

選択肢は「はいといいえ」の二択ではありません。


どうか「逃げる」事も選択肢に入れて欲しいと思います。


皆さんにしか出来ない事がある!

綺麗事に聞こえるでしょう。

ですが、それさえ封じ込めて「抹殺」しようとする世の中に「迎合」しないで下さい。









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