第16話奢なれば不遜、倹なれば固し

題名の意味ですが。


豪勢になれば礼儀を忘れ、倹約も過ぎると吝嗇(ケチ)になる。でしょうか。



もう昭和の時代、平成の始めでしょうか。もう昔。


その時代を懐かしむ人もまだ多いと思いますが、豪奢な時代でありました。


ピンドンコン


と言うお酒が流行ったとも聞きます。


ピンドンコン。調べれば出てくると思いますが。

豪奢の一つですね。



ピンクのドン・ペリニヨンとコニャックをカクテルしたお酒で、水商売のホステスさんやホストさんが自分を指名してくれた客に注文する様にねだった…そうです。


お酒も通常のレストランでも、ワイン等は小売の三倍の値段で提供される事が殆どです。

五千円のテーブルワインが一万五千円での提供になります。

勿論ちゃんとしたレストランですと、きちんとした温度管理や湿度管理がなされ、封切りもお客様のテーブルで抜栓して、テイスティングや澱を除く作業もして空気に触れさせながらデキャンタージュしてから提供します。


ですがピンドンコンは違います。

値段は三倍ではすみません。現在のドン・ペリニヨンのスタンダードが2万円弱ですが、ピンク…はロゼですから更に値が上り、更にお店のサービス料も入りますと四十万弱、更にコニャックも最上の物としてピンドンコンにカクテルされますと…


百万円…は超えていた様です。


更には毎日の様に単品でドン・ペリニヨン、コニャック、ロゼが出たので温度管理等はしていなかった様ですね。




更に現在より不遜であった日本人は海外でも豊富なバブルマネーで名品を買い漁ったので嫌われていたようです。

ゴッホの「ひまわり」等は日本のバブルの見本でしょう…仲介した海外の美術品バイヤーが「日本に最高額を出させた!」と自慢した位ですから。



ブランド信仰やグルメにも血道を上げる様子は現代人からすると奇異に映るかもしれませんね。





昔の大陸の皇帝の逸話ですと。


質素を基本としていた皇帝ですが、少し良い物をと、親族との食事の際に翡翠の箸置を用いたそうです。


親族がいきなりどうした?と問うと。

皇帝は、少しは贅沢をしても良いのではないか…と答えます。

親族は言いました。

今は質素な青菜の菜や汁物で満足出来ているのに…次は翡翠に釣り合う様にと料理が豪華になろう。更には箸や食器も豪勢にせねば気が済まなくなり…終いには民に税を課すだろう…その箸置は捨てるべし。


皇帝は忠告を聞かず、次第に食事に限らず衣服や城にも豪奢を求め、国は滅びた…そうです。



人間誰しも「これ位」なら良いだろうとちょっとした贅沢を楽しんでいると思います。


ピンドンコンや翡翠の箸置を求めては良くありませんが、人間には多少の贅沢は必要ですよね。



ピンドンコンにも触れましたが、「お酒」も立派な奢侈品です。

アメリカの禁酒法時代がギャングの横行する暗黒時代を生んだように、いたずらに国民を押さえ付けるのは良くないですよね。


実は日本の戦国時代、土佐の出来人と呼ばれた戦国大名、長曾我部元親も実は禁酒法を出しています。


理由は一領具足の兵達が負けず劣らずの酒豪であったので合戦が終わった後に盛大に酒を痛飲していた…のが、夜襲を受けたら全滅する!と元親が危惧して止めさせた…そうです。


ですがそれからは政も戦も上手くいきません。

酒飲みの家臣は密かに飲酒する。下戸の家臣は村々に厳しく禁酒法を敷く。更には元親自身も酒をこっそり呑んでいて…

重臣が元親の城に運ばれる酒瓶を打ち割り元親を諌めて禁酒法は撤回されたそうです。




奢なれば不遜…の例を上げましたが。





次は、倹なれば固し…です。



倹約と吝嗇(りんしょく、ケチ)は違います。

ですが、倹約も気がつくと吝嗇になっていたりもします。



身近に居ませんか?


ファストフード店で皆でポテト等をシェアしてもそのポテトのみ食べて一円もシェアしない人とか。


スーパーのサッカー台にある無料の透明ビニールを一人で何巻も持っていったり…


自分で育てた野菜や米を友達に定価より高く売ろうとしたり…



果ては村の共用の土地を個人が専有して、挙げ句隣の家の土地迄手に入れようと嫌がらせをする…



この辺り迄行くともう犯罪かもしれませんね…



兎角お金持ちの横柄な態度も気になりますが、吝嗇極まり他人を陥れる人よりはマシかな…とも思えます。



またも戦国時代のお話ですが。


倹約を心掛けたのが、関東の雄、後北条氏の祖となった伊勢宗瑞盛時ではないでしょうか。

北条早雲のが通りが良いので北条早雲とします。


北条早雲公は戦国大名の先駆けの一人ともされます。

それは元々の守護大名や在地領主ではなく、他所から関東に入り、独立自治をしたからです。


早雲公は勢力を拡大しても、前の領主や大名より税率を下げたり、疫病の蔓延を未然に防いだりと民心に重きを置いています。

疫病の時等は戦でとったばかりの領地で、元気な者は山に逃げて、村には逃げれない病人だけが残った…と言う悲惨さ。

早雲公は真っ先に支配を確立せねばならぬ時に下馬し、村に留まり、自領から物資や薬を手配して手厚く看病したので、回復した村人が逃げた村人に早雲公の行いを伝え、安心して村に戻ったそうです。

他にも税率を五公五民から四公六民にし、農民が土地を捨てぬ様に気を配りました。

早雲公は「まずは与えよ。下々が富みて後に、我はとる」を実践されました。


北条早雲公の来歴ばかりで倹約の話はどうした?


はい。


北条早雲公は他所から関東に入り身を立てました。故に台所事情は火の車でした。

ですが、自分の利益よりも民の利益を先にする方だったのでかなりの倹約家でした。


有名なのは折れた針と言えども捨てずに蔵に収めよ。


ですかね。

折れて使い道の無いものにも早雲公は価値を見出してみだりに捨てませんでした。


更には時間迄活用します。


夕方は五つ(午後八時)前に寝、寅の刻(午前四時)に起きて行水をし、身じまいを整える。その日の用事を妻子や家来の者にいいつけておいて、六つ(午前六時)前に出仕すること。


他にも早雲公の覚書として沢山の身の立て方が残されています。


早雲公は民に与える為に己の身を謹んだ正に正しい「倹約家」でしょう。



針繋がりで、後の太閤、木下藤吉郎秀吉も中々の倹約家です。


針繋がりと言ったのは、秀吉公が士官する前は針の行商をしていたとされているからです。


秀吉公が小者の時に織田信長公の小姓から捨てる蜜柑の皮を貰い受けて、それを薬屋に売って立派な小袖を仕立てた…と有ります。

今でも蜜柑の皮は陳皮と言い、漢方、和漢でも盛んに使われています。

他にも信長公が薪の減りが早く出費であるからと秀吉公に工夫をさせました。

秀吉公は感覚で酸素が薪を燃やすと言うのを理解していた様で、竈門の周りに隔たりを設けて少ない薪でも火力が出る様に工夫しました。

信長公は、「藤吉郎、それはみっともない。隔たりを退けよ」そう言われますと、秀吉公が綱を引くと隔たりは綺麗に退けれたので信長公も文句が出なかったとか。


そして秀吉公は金遣いの達人でもあります。

普段は倹約家ですが、「ここぞ」と言う場面では貯めた金をすぐに出します。中国大返しの時ですとか、賤ヶ岳の戦いの美濃からの大返しの時も費えは惜しみませんでした。

倹約のみではなく、使い所を秀吉公と早雲公はわきまえていました。



他にも有名武将の倹約家振りは沢山紹介したいのですが…それはまたの機会に。



倹約は近代とされる昭和でも行われていました。

商人と言えば羽振りが良いイメージがあると思いますが。


着物の表は上等の生地で仕立てますが、裏地は玉ねぎの皮で染めた布をあてていたり。

客には上質の煎茶を出しますが、自分達は格安の番茶で済ませたり。

店主と使用人の味噌汁が回し飲みだったと言う場所もあります。

見事な尾頭付きの魚の具沢山味噌汁ですが。

まずは店主が汁を少しと魚の半身を食べます。

それを番頭に。番頭も魚の身を少しと汁を。次に年季の入った使用人が受け、汁と他の具材を。最後に丁稚奉公の小僧さんには味噌の実と少しずつ残っている魚の身と具材が渡る…そう言う仕来りの場所もあったとか。





現在は何でも探せば格安で手に入ったり、日本にいながら世界中から品物も手に入れられます。


古臭い戦国時代や昭和を引き合いに出されても…とも思われると思います。


ですが、歴史と今現在は見えない地面に地続きであると思います。


そうでもなければ「温故知新」古きを知りて新しきを知る…とはなりませんよね?



我々は経験から学ぶ生物です。


ですからお金持ちになったとしても、貧乏になったとしても、それぞれの苦労や楽しさがあると思えれば。



安易に競争に巻き込まれたり、他人を恨んだり境遇を嘆いたりする事も少なくなると思います。




ちなみに私は貧乏ですので、江戸時代の豆腐百珍や食材の活用法を手元に置いて「貧しさ」を楽しんでおります。



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