第204話 くっころ男騎士とエルフの秘密
エルフには寿命がない。その言葉に、僕は思わず顔をしかめそうになった。そんな連中とどうやって戦えというのか。
「よくわかんないんだけど、エルフは年を取らないって言ってるの? もしかして」
カリーナが耳打ちしてくる。僕はコクリと頷いた。本当に寿命の上限がないのかは不明だが、あの見た目はロリなダライヤ氏も年齢四桁なわけだからな。せいぜい百年程度しか生きていられない僕たち短命種から見れば、実質無制限みたいなもんだ。
「ど、どうしよう。そんなのを敵に回して、勝てるとは思わないんだけど……」
「流石に不死身の戦士というわけではないだろうが、厄介だな。千歳オーバーの御老人が大量に居るとすれば、経験の蓄積も尋常ではないハズだ」
逆に、前代官はこんな連中をどうやって撃退していたのか不思議でならない。軍備だって、僕の軍と比べればはるかに少なく、装備も貧弱だったハズだ。……普通に考えて、小手先の工夫で何とかできるレベルじゃないだろ。裏で取引でもしていたか、あるいはエルフたちが
「そげん顔をせんでん、大丈夫じゃ。エルフたちは無敵ん軍団じゃらせんじゃ」
コソコソと話し合う僕らを見てウルはニヤリと笑い、声を潜めてそう言った。
「本当はあまりゆわん方が良か事じゃっどん、一宿一飯ん恩義もあっとで特別にお教えしもんそ。エルフたちは、けしみたがりじゃ。そけ付け入っ隙があっと」
……何か重大な秘密を教えてくれているらしいが、訛りのせいで肝心な部分がよくわかんねえ!! なんだよ、けしみたがりって!? 冷や汗をかきながらカリーナの方を見るが、彼女は『私に聞かないでよ!』とでも言わんばかりの表情で首をブンブンと左右に振った。
「ええと、こちらん言葉でゆと…… 死にたがり、やろうか」
僕らの反応を見て意味が通じていないことに気付いたのだろう、ウルはひどくバツの悪そうな表情でそう言い直した。
「寿命を持たんでこそ、生にしがみつっことを恥じゃち考ゆっエルフ部族じゃ」
「ふむ……」
少し考えこみながら僕は頷き、フォークで揚げタマネギを刺してウルの前に差し出した。彼女は一瞬だけ照れたような表情になってから、パクリとそれを食べた。
……なぜか、隣のカリーナが自分の持っていたフォークを差し出しつつ、口を開けている。この義妹、妙にあざといな。仕方がないので、彼女にも食わせてやる。ウルがちょっと憮然とした顔になった。
「ほら、ビールもどうぞ」
彼女にはペラペラ気分よくエルフ族たちの秘密を喋って貰わねばならない。僕は中身の少なくなった彼女のカップに燕麦ビールを継ぎ足し、差し出してやった。『それでいいんだ、それで』とでも言いたげな様子で、ウルはそれをゴクゴク飲み干す。……いやあ、なんかコレ楽しいな。やはり、人が旨そうに飲食している姿ほど見ていて面白いものはない。
「ぷはっ……ええと、エルフん生死観やったね。ただ長う生きっだけなら、そこあたいん草木にだってしきっ。そいがエルフたちん口癖じゃ。より良う生きっよりも、より良う
そう言ってから、ウルは次はタマネギだとばかりに大口を開けた。お望み通り、ドでかいタマネギを突っ込んでやる。
「あぐあぐ……具体的に言えば、彼女らは名誉ん戦死を遂ぐっか、子を産んで
「ほう」
名誉の戦死云々、ねえ。内戦で人口が激減したのも、それが原因かな? 美しい死にざまを求める連中が、身内同士で相争う事態になれば……派手な集団自殺の様相になってもおかしくない。さぞや悲惨な戦いだったことだろう。
「子を産んでって……どういうこと?」
難しい表情で、カリーナが聞いた。そうそう、そこも気になるんだよな、エルフの繁殖事情。いや人間相手に繁殖なんて言葉を使うのは不適切か。でも、子作り事情と言い換えてもそれはそれでなんだかヤバそうな雰囲気あるしな……。
そもそも、不老長寿の長命種のわりに激烈に男求めすぎなんだよ、エルフは。いや、攫ってきた男たちは、配下の鳥人や
「ああ、身近に長命種がおらんとこん辺りはようわかりもはんね。エルフたちは、あっ程度ん年齢になっと時が止まったごつ成長も加齢もせんくなっとじゃ。じゃっどん一たび子を孕めば、そん止まっちょった時が再び動き出し、あてら短命種と同じようように歳をとっごつなりもす」
……子供が出来ると、加齢するようになる? 少し面食らったが、確かに不老長寿のエルフたちが無制限に子供を産めたら、世の中エルフばかりになってしまう。
しかし、現実にはエルフは少数部族に過ぎないわけだ。繁殖力が極端に低い種族なのではないかと予想していたのだが、なるほどそういう事情があったのか。
「ガレアには結婚は人生の墓場、という言葉があるが……エルフたちにとっては、文字通りの意味になるわけだな」
「そん通り。エルフたちにとって、男を作ったぁ
ふーむ、なるほどなるほど。エルフたちの文化が、なんとなくわかってきたような気がする。不老ではあっても不死ではないがゆえに、彼女らは死を強く意識しているわけか。まあ、長生きするだけが人生じゃないしな。そのあたりは、僕としてもある程度理解できる。
「んっ!」
などと考えていると、ウルが催促するように口を突き出してきた。まるで餌を求めるひな鳥のようだ。まあ、彼女はひな鳥どころか、僕と同じくらいの身長のデッカイ鳥人間なんだが。苦笑しながら、タマネギを彼女の口に放り込む。
しかし、裏取りは必要にしても貴重な情報が手に入ったな。やはり、彼女に対する接待作戦はうまく行っていると考えてよいだろう。接待を継続し、どんどんこちら側に引き込んでいきたいところだな。
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