「誰そ彼に海は泣く」 獏

@Talkstand_bungeibu

第1話

「誰そ彼に海は泣く」 獏


「こちらWDライン『エーギル』。定時報告です。観測対象の不在を確認しました。」

「WDライン『ポセイドン』。了解。此方にも観測対象はいない。他各域はどうだ。」

「こちら『ワダツミ』。もう誰もいねーっす。」

「こちら『ヴァルナ』。私の管轄には37名いるわ。」

「各位、了解。残すところわずかだ。引き続き気を緩めぬよう。」

「うぃーす。いやー、長かったようで短かったっすね。」

「ええ。『私たち』を認知するまでが大変だったわ。」

「そこからはあっという間でしたね。子供の巣立ちとはこういうものでしょうか。」

「各位、気を緩めるなと言っている。」

「少しくらいいいじゃない、もう終盤なのだし…あら、今方舟が海岸に着陸したわ。これで最後かしら。」

海岸にいる生命体が方舟に乗り込む。しばらくして、ブブブブと重低音を発しながらそれは宙へ向かって飛び立った。

「こちら『ヴァルナ』。管轄区域における観測対象の消失を確認したわ。」

「こちら『ポセイドン』。全対象の消失を確認。皆ご苦労。」

「お疲れ様でした。ところで、新たな神、知恵と鋼鉄の神『科学(ノア)』ですか。結局、僕たちとは一度も話ができませんでしたが、彼らを任せて本当に良かったのでしょうかね。」

「いーんじゃねーすか。これまでは俺らが壁となり、彼らの発展を促した。これからは彼ら自身で神を育てる。そーゆー段階に進んだんじゃないすか。」

「その通りだ。どの道、この惑星は寿命が来ているのだ。我々ではもう守れまい。彼らは我々の腕から飛び立ち、自らの手で存続を獲得する他無い。であれば、時限に間に合ったことを誇るべきだ。さて、改めて皆ここまで本当によくやった。現時刻を以て至上命令『惑星の自己進化』補完プログラム『海神』を終了する。」

静寂に包まれた世界で、我々を呼ぶ声々を思い出す。暴威を前にした畏怖の声、簒奪への憎悪の声、そして我々を克服した歓喜の声。もう、声はない。

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