無敵な彼女の平穏な日常
楠木葉名の朝はいたって平穏に始まる。素早く朝のルーティンを済ませて、朝食を食べ、ブレザーに着替えて登校する。文句のつけようのない平穏な日常だ。
「~~~♪」
鼻歌を歌い陽気な調子で登校していく姿はまさしく明るく快活な女子高生だ。その姿を見て、彼女があの伝説の千年妖狐の転生体だと思う人間は一人もいないだろう。
葉名は登校の途中に時間に余裕があるのか、古い神社に寄り道をした。赤錆色の鳥居を潜り抜けると、古びた本殿が姿を現す。葉名はそれを見て「いつ見ても変わらないなぁ」とつぶやいた。
慶内わきにカバンを置き、軽く拝礼を済ませた葉名は秘密裏に設置したバケツを探り当て、それを蛇口からひねった水を入れバケツを満杯にしていく。葉名はしっかり水がたまったことを確認すると彼女は柄杓をつかみ取りバケツを持って狛犬のところまで運んでいく。そして葉名は柄杓でバケツの水を汲み狛犬を順番に水を濡らしていった。充分に水を狛犬を濡らし終えるとタオルで狛犬を吹き始めた。一連の作業を終えたら狛犬は心なしかきれいになっていた。
「よしっ! 今日の狛犬の水浴び終わりっ!」
葉名はバケツの水を石畳に流す。太陽光が石畳に反射してキラキラ輝く。葉名は小学五年生の時、偶然入り込んだ神社で狛犬が汚くなっていたのを目撃していて以来、暇を見つけては自主的に狛犬の水浴びを行っていたのだ。その行為はもちろん彼女の自己満足でしかないが、今では彼女の登下校時のルーティンになっていたのであった。そのまま再び拝礼をしカバンを持ち神社を後にした。
そのあとは何もなく中津宮学園に登校した。
昼休み。中津宮学園の生徒たちにとってはささやかな癒しの時間。葉名はクラスメイトの戸山琴子とランチタイムに講じていた。はた目からは和やかな平和なランチタイムに見えた。
「あのさ、葉名は、古河くんのことをどう思っているの?」
それは突然の出来事だった。
「いや、別に遊聖くんのことはなんでもないよ」
葉名は遊聖のことは特に何でもないと言ったが琴子はあまり神輿指定なような目で見た。
「本当に何でもないの? 実は憎からず思ったりしちゃったりして」
そう言いながら琴子は葉名をちょんちょんした。
「本当だよ!?」
葉名は特に何もないことを強調した。
「本当に何もないんだ、つまんないの」
琴子は葉名に対してこれ以上追及するのは止めた。しかし琴子の心中はいつか葉名と古河くんの関係をいつか暴いて見せると情熱の炎を燃やしていた。
放課後、今日は調理クラブの活動日だ。今日の調理クラブはあらかじめ葉名の脳内で考えていたマカロニグラタンの調理だ。遊聖にマカロニグラタンに必要な食材の買い出しを頼んでおいた。中津宮付近には大型ショッピングセンタージャヌコがあり、買い出しに行くこと自体は半紙を真っ二つに破るように容易だ。サボり癖がある遊聖も最近は買い出しに乗り気になっていていい傾向だ。そこまで葉名が考えた時に葉名の脳裏に奇妙な胸騒ぎがした。葉名の直感は良く当たる傾向にあった。慌てて葉名は中津宮学園に存在するとある場所に向かった。
そこは第二美術準備室と書いてあったがその扉には『一番ケ瀬探偵事務所』と張り紙してあった。葉名は勢いよくノックした。
「入っていいよ~」
間延びした声が第二美術準備室から聞こえ、葉名は第二美術準備室に入室した。
「一番ヶ瀬先輩、実はあたしの第六感がマカロニグラタンの調理は大変なことになると知らせてきたの……遊聖くんを探してきてほしいの」
「なんだそんなことか~、僕に任せて~」
緊張感のない声が響き渡り一番ケ瀬先輩こと一番ヶ瀬環がぼさぼさヘアーをなびかせて葉名にウインクした。
そうここにきて大変なことになったのである。
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