第53話 二人の初めて

「ようロイド、元気か」


 授業が終わったら、俺の隣に座っているロイドの所にチンピラみたいな奴がやってきた。


「元気だよ。ビンビンさ」

「もっとビンビンになれる店を見つけたんだ行かないか」


「ロイド、友達は選べ」


 俺はそう声をかけた。


「彼らはそんなに危なくないよ。エッチな店を紹介してくれるだけだ」

「待ってるぜ」

「待った、俺も行く」


「ヒロ、エッチな店って聞いて首を突っ込むの。その店は女性はお断り?」

「いや、少ないが女性もたまに来る。酒とギャンブルも出来るからな」


 チンピラが答えた。


「じゃ決まりね」

「わたくしも連れてって下さいませ」


 いつの間にかモーラも来ていた。


 アイナとモーラとロイドと俺の四人でエッチな店に行く事になった。

 時間を潰し、夕暮れになり、チンピラ学生の案内で店に到着。


 入口は平凡だった。

 看板もない。

 扉に装飾などもないし店名も書いてない。

 いや、平凡ではないな、怪しい店だ。


 扉を開けると吟遊詩人が卑猥な歌を歌っているのが聞こえ、ピンクの照明が点っていた。

 中央にはお立ち台みたいなのがあり、全裸のお姉さんが踊っている。

 ストリップバーみたいな奴か。

 健全とは言えないが、違法ではないな。


「ちょっと、本当にエッチなお店なのね」


 アイナは顔を真っ赤にしてダンサーを見つめてた。


「殿方はこういう店で密談をなさると聞きました」

「そうかもな。座ろう」


「僕はギャンブルをしてくる」

「意外だな。ロイドなら全裸のお姉さんを見て酒を飲むと思ったが」

「ギャンブルで儲けてダンサーのお姉さんのチップに渡すんだ。金額が多いと楽屋に呼ばれて美味しい思いができる」

「詳しいな」

「何回か、こういう店に来たから」


 俺とアイナとモーラはテーブルに着いて酒とつまみを注文した。


「楽しいが、俺はアイナ達と戯れている方がいいな。だけど、セクシーダンスってのはいいな。今度やってくれるか」

「馬鹿」

「こういう踊りは得意ではありませんわ。社交ダンスならできますけど」

「裸で社交ダンスか。それも良いかもな」


 ダンサーにはお触り禁止だろうから、雰囲気を楽しんで飲む店だと思う。

 ロイドみたいに裏メニューを試すなら別だが。


 俺? 俺は金で女をどうこうするのは好かん。

 プレゼントでどうこうするのはセーフだが、直の金銭はなんとなく違うと思う。


 ほろ酔い気分になってきた時、ロイドが吹っ飛んできた。

 何やったんだ、あいつ。


「ほら、ロイドどうしたんだ。アイナ、回復魔法を掛けてやってくれ」

「ダンサーに手でも出したんでしょ。もう、世話が掛かる。回復ヒール

「ロイド、大丈夫か? どうしたんだよ?」

「ふう、あの世で全裸の天使と会って来た」

「しっかりしろ」


「ギャンブルで勝過ぎたら、いかさまだと言われて、ぶっ飛ばされた」


「おい、お前らこいつの仲間か。いかさまは金貨100枚払う事になっている。おっ、まぶいスケ連れてるじゃないか。その女達を一晩貸してくれたらチャラにしてやろう」


 いかつい男が寄って来て言った。


「ふざけるな。冗談は芸人が言うものだぜ」

「お前ら力を貸せ。袋にするぞ」


 掛かって来た男達に秘孔魔法・金縛り拳を打ち込む。


「何をした首から下が動かねぇ。兄貴、兄貴。出てきて下せぇ」


 兄貴と呼ばれる男が出て来た。


「情けねぇ声を出しやがって、みっともねぇ。」


 秘孔魔法・金縛り拳を打ち込む。


「こんなの効かないぜ。ふんがぁ」


 そこそこやるな。

 ならば。


 秘孔魔法・滅魔点穴からの秘孔魔法・金縛り拳。


「ふんがぁ。あれっ。どうなっているんだ。動けない」

「私の店で暴れている奴がいたと思ったら、お前か」


 俺を知っているとはな。

 誰だろうと見たら、階級突破クラブ会長のガイだった。


「お前が親玉か」


「オーナーという所だ。先生、頼みますよ。高い金払っているんだから、働いて下さい」


 空気の動きを感じた。

 その場所に秘孔魔法・爪死弾を撃ち込む。

 年配の男が現れた。


 隠蔽魔法を使っていたんだな。

 秘孔魔法・滅魔点穴からの秘孔魔法・金縛り拳。


 お触り魔法を迎撃された。

 手に痛みが走る。


 仕方ない。

 秘孔魔法・針死弾で秘孔魔法・滅魔点穴からの秘孔魔法・金縛り拳。


「わしがやられるとは」


 あれっ、ガイが居ない。

 逃げたな。


「僕はいかさまはしてない。金を返せ」

「ロイド、今日は帰ろう。いい勉強になったと金は諦めるんだな」

「そんな」

「勝ちすぎると怖い兄さんが出て来るってのは良くある話だ」

「詳しいんだね」

「なに、聞いた話だ」


「私も帰りたいわ。ちっとも面白くない」

「女には楽しめない所だからな」

「十分、社会見学になりましたわ」

「モーラはなんか面白い所があったら、また連れて行ってやろう」


「でも、私達を守ってくれた所は、恰好良かった」

「そうですわね。わたくし達のナイトになっていましたわ」


「ロイド、ここでお別れだ。気をつけて帰れよ」


 ロイドを帰して店を出る。


「なぁ、二人を守ったよな。褒美とかないの」

「これだから、死んでも守るからとか言えないの」

「少しいい気分が台無しですわ」


「仕方ないわね。キスしてあげる」

「キスは初めてだな。目をつぶれよ」


 目をつぶったアイナの唇に唇を重ねた。

 そして、神経に快感を送り込んだ。


「はうん、むぐ、ぷはぁ。それは許してない」

「気持ち良かっただろ」


「アイナさんがしたなら、わたくしも」

「よし、快感つきのキスだ」


「ああっ、むぐん、ふぁ。キスだけでこんなになるなんて」

「二人の初めてを奪ったんだよな」

「そうね、私は初めてよ」

「わたくしも初めてですわ」


 二人の初めてを奪った。

 良きかな、良きかな。

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