茜色した思い出へ

新吉

第1話 赤音色の面影へ

 ここはとんぼが飛んでこない。昔はよく近所の子と遊んで、つかれて歩いて。だんだんと影が長くなってきて。幼い頃の彼女の面影ばかりを、よく思い出す。地上にいた頃は虫がとにかくうるさかった。羽虫、泣き虫、飛んで火に入る夏の虫、虫の息、虫の居所が悪い。

 空を飛びたかった。大人になってみてわかる。こどもは残酷だ。わからなかったんだ。鳥のように、窓辺から飛び立てるようになると思っていた。

 やらなきゃいけないことを繰り返すうち、そんな子どもの頃の夢物語なんて忘れていた。秋の鈴虫の声がやけに俺の耳をうつ。自棄になる。蝉よりうるさく聞こえるなんて。どうかしてる。


 そんな時だった。ニュースは騒ぎ立てた。

 空に浮かぶためのエネルギーが見つかったらしい。

 人が空を飛べるといううたい文句だったはずだ。


 俺らの空の国は、はじめから空に浮いていた訳ではない。国をあげて空へ伸びるエレベーターを作る、そして空に浮かぶ街を作ろう。その事業に俺も参加した。憧れと期待が大きかった。だからすぐやめることができなかった。今は反対されていても、きっといい事業になる。今は戦争になっているが、きっとまとまっていい国になる。今は二つに別れているが、きっとまた一つになる。俺は自分のしていることを信じたかった。だがそうじゃなかった。だからこうなってしまった。正しいことでもいいことでもない。間違いの一つだった。

 だからそれでも俺は止まれずにここまできた。


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