第36話 真の願い
みこと達が屋上から暴徒を止めに行くタイミングで自衛隊は高輪真の身柄を確保及び生死の確認の為、東京アクアシティに精鋭部隊員を突入させた。
「各員、対象は瀕死と目されるが最大限の警戒態勢を維持し任務に当たれ。」
自衛隊の通信無線からは対象高輪真に対する警戒について再度周知され屋上へ集結した精鋭隊員は各自厳戒態勢を維持したまま、彼女へ近づいていく。
「対象は大量出血ながらも辛うじて生存、
指示を乞う。」
自衛隊員の確認の際、高輪真はまだ息があり、彼女自身にも彼らのやり取りは聞こえていた。
高輪真は自衛隊員の声を聞きながら霧崎みことの動向を察していた。
"そうか彼女はこれほどまでに、大勢の人間に信頼されているのか"
"私とは大違いだな"
高輪真の家は彼女が幼い頃より、両親の喧嘩が絶えずほぼ毎日のように怒鳴り合っていた。
初めは父が母へ暴言や暴力を振るっていたのだが
高輪真が大きなるにつれて矛先はシン自信へも及ぶようになっていった。
たび重なる父からの暴力に怯えながらも高輪真はなんとか耐え続けていた。
耐えられたのも、母はシンが暴力を振るわれていると知ると必ず身を呈して守ってくれていた。
そんな母の姿を見ていつか母と二人でこの場所から"解放"されたいと願うようになっていった。
ただ、そんな願いも虚しく父からの暴力は日に日に増して行った。
そして、ある日を境に自分を庇い守ってくれていた母までも、自分に暴力を振るうようになっていった。
恐らくは母親も限界だったのだろう。
ただ、高輪真から見ればそれはこの世の地獄と同義であり、そんな環境に絶望して徐々に解放されたい願いは、自身をこの世界から解放したいに変貌していった。
それも致し方ないのかもしれない、当時の高輪真の周りには彼女を守ってくれる存在はいなかった。
学校では常に同じ服を着て、風呂にもろくに入れなかった彼女を、同級生らは虐め、友達と呼べる者は存在しなかった。
先生を始めとする大人も彼女を張れもとして扱い、家では両親から暴力を振るわれる。
どうして、自分ばかりこのような目に遭うのか。
彼女は世界を呪い、やがて彼女は人の皮を被った悪魔の解放と自身をこの世界から自由にさせる事を強く願うようになっていった。
この時すでに彼女は魂を見る事が出来ており人々の魂の醜さにも絶望を感じていた。
そんな日々続く中、彼女はある出会いを果たす。
高輪真の異能は力は小さく魂の状態とも言うべき色合いを見ることだけが出来ていた。
この異能は真の自由になりたいとの願いから人々の魂見て自分に合っている人を見つけたり、危険から逃げたりと使い方はあるのだが当時の彼女には、そのような考えに至ることは出来ず、それが何なのかも分からずにいた。
彼女は全てに耐えきれなくなって、逃げ出すように家出をし行くあても無く彷徨っていた彼女は、ある男性と出会う。
その男性は、真に出会って早々に彼女の異能に付いて語り始めた。
そして、その力男性に必要であり自分にはその力を高めることができると。
普通であれば怪しさ満載の出会いであるが、当時の彼女からすると、それすらも魅力的に写ってしまっていた。
そして、高輪真は男性の元で寝食を元にし、異能に着いても学んでいく。
男性の力で魂の色が見えるだけの異能は、他者の魂へも影響を与えるようになり、空間や事象へも少なからず異能を使えるようになっていった。
高輪真は他に頼る者がいなかった為、男性の望みを叶え続け、そして宗教団体を設立し現在の事件を引き起こすまでになって行く。
ただ、自分の真の願いには気付かないまま。
彼女は、自身の願いを置いてけぼりにして
男性の願いを叶え続けた。
そして今。
彼女、高輪真は死の淵で走馬灯を眺めながら
考えていた。
自分の願いはなんだったのだろうか。
他者を殺める事か。
この世界を憎む事か。
男性の願いを叶える事か。
いや、どれも違うだろう。
では、彼女が幼い頃に抱いた異能の発現のきっかけとなった、全てからの自由、世界から自分も含めて解放される事か。
当時は憎しみが強かったため、高輪真もそう考えていたが、希望に溢れる魂、清らかな魂、得体の知れない魂を持つ者など、色々な人に触れきっとそれも違うと彼女は悟っていた。
決して自分は始めから世界を友人をそして、両親を憎み、恨んでいた訳では無い。
自分の両親を地獄から救い出し、家族を幸せにして愛すること。
そう、彼女の初めの願いは皆の心から悪いモノを解放したいとの純然たる願いであった事を。
この死の淵に至って初めて気づかされたのだった。
雲ひとつ無い天空のソレを見つめながら、
彼女は少し笑みを零した。
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