第15話 教祖との再会

 みことは、背中に走る激痛に耐えながら、

ゆっくりと立ち上がり、目の前の異能者の女性へ一瞥をくれる。


一瞬の出来事であったが、先程の盾の発動の効果も心なしか

減少している感じであった。


「どこへ行くき。」


みことは、吐きそうな感覚の襲われ呼吸も一瞬止まっていたが

何とか声をだし彼女を呼び止めた。


「彼の所へ」


彼?


別にここに彼氏がいるわけでもないだろう。


「さぁ、リュウ行きますよ」


「とどめは刺さなくても宜しいのですか」


「えぇ」


もう、自分を気にも留めていないようすにみことは

大鎌を振るい一撃を加える。


言い方がかなり頭に来たのでかなり強烈な一撃だったが、

彼女は意に介さずこれを防いだ。


まずい。


このままでは、地下シェルターへ。


みことはなんとか立ち上がろうとするが

身体が動かない。


そして、一瞬ブラックアウトしてしまった。


みことが目を覚ましたのはインカムから

聞こえる木崎達の声だった。


木崎達が敵と交戦している。


普段戦闘をする人ではないから

かなりきついはずだ。


それに引き換えわたしはどうか。


まだ床と結婚するには早すぎる。


幸いブラックアウトしたのも

数十秒程度のようだ。


まだ、間に合う。


急がなければ。


みことは、自分の異能を活用し

震える足を細い糸状のワイヤーで固定し

歩き出した。


インカムからは地下シェルターへ逃げ込めた安堵の

会話が伝わってくる。


これで、少しは。


そう、思った瞬間にインカムを通して轟音が鳴り響いた。


まずい、まさかこんなに簡単に地下シェルターが

破壊されるなんて。


みことは、皆の危険を察知し今出来る

最速で移動しようとしていた。


「初めまして、皆さん」


壁の壊れた土埃が少しずつ晴れて行き

その先には可憐な顔つきにのスレンダーな

女性が立っていた。


木崎は彼女へ銃口を向けながら、周囲を警戒する。

インカムからみこと声が聞こえなくなってから

まさかと、思ってはいたが。


「あなたは、高輪真様。

生きていたのですか」

突如彼女の名前を口に出したのは小谷周平だった。


やはり、高輪と呼ばれた彼女が例の事件の新興宗教の教祖にして実行犯。


そして、小谷はやはりまだ。


「お久ぶりですね、周平」


「さぁ、こちらへ」

木崎は銃口を高輪真と呼ばれた女性へ構え警告を

促す。


高輪はそんな警告は聞く耳をもたず

小谷周平へ再度、こちらへ来るように促す。


小谷周平はかなり迷っている様子ではあった。


彼からしたら彼女は救世主かもしれない。


彼が手を伸ばそうとした時、木崎が発砲した。


これ以外に、二人のやり取りを制止する手立てが

思い浮かばなかったから致し方ないが。


木崎の発砲した銃声を聞いて、小谷周平は一瞬立ち止まっていた。


この、差し出された手を取れば。


自分は、また拠り所を得られるかもしれない。


一度は崇拝し、信仰した。


そして、死んだと思った教祖様は目の前に

奇跡の復活を遂げているのだから。


なぜ、銃声程度で立ち止まっているのか。


すぐに、手を取り歩み寄らないのか、

自分自身でもわからず、頭の中は混乱していた。


「周りを見なさい、あなたは一人じゃないわ。」


最近よく聞く、偉そうで、それでいて優しく。

いつも冷静で、励ましてくれる。


どこか憎めない声に反応して小谷周平は、ゆっくりと回りを

見渡した。


自分に周りには、高輪真の恐怖より自分。


小谷周平を心配そうにしている顔が並んでいた。


今日会ったばかりの研究所職員、

色々助けてくれる木崎さん。


そして、自分の目の前にはよく知った少女の

後姿があった。


今日、昨日あったばかりの人達だ。


正直、教祖様を信じていた時期の方が

十分長かった。


でも。


なぜだか、傷だらけで、今にも倒れそうで。


それでも凛として自分の前に立っている少女の方が

信じられる。


そう、心の奥底で感じていた。


「みことさん」


彼は、霧崎みことを下の名前で呼んだ。

以前、彼女は嫌そうな感じを出していた気がするが

今は、そんな雰囲気は感じさせなかった。


「おねがい、たすけて。」


小谷周平は自分でも意識せずに、目の前の少女へ

今一番の願いを口にした。


「えぇ、もちろんよ」


彼女は、その願いを聞き、その為に戻って来たと

そう告げてた。


「一度、負けておいて、良く言えますね」


高輪真は、いまだ底がしれない。

先程の攻撃も正直どうなっているのか不明。


それでも、今は戦うしかない。

後には守るべき人たちがいるから。

 

みことは、震える身体に鞭をうち

高輪真へ向かい合う。


いつもの大鎌を構え、最大限の警戒をしながら

彼女へ一撃を繰り出す。


攻撃は高輪真へ今度こそ届いたように見えたが。

寸前の所で、鎌の切っ先は宙を浮いている。


「だから、行ったでしょ。あなたでは無理よ」


高輪真は余裕の表情を見せてみことの攻撃を

難なく防いでいた。


彼女の後ろにリュウがいる事も見て取れるが全く

戦闘に加わろうとはしない。


きっと、加勢など不要なのだろう。


みことは、再び鎌を構え攻撃態勢へ入った。

その時、高輪真へ向けて、何発かの銃弾が命中した。


「銃でもだめか」


そう言って、所長は戦いへ割って入って来た。


案の定、弾丸は高輪真へは届かず少しの間

空中に浮き、そのまま床へと落下した。


「えぇ、その程度は無意味よ。

 所長さん」


所長の加勢も、意に返さず。

高輪真は不敵に微笑んでいた。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る